それは、先日。

楓のお誕生日会の夜のこと。

ひかり

はいっ、ジュース買ってきたよ!

留奈

……ふ、ふん。気がきくじゃない? あ、ありがとう

ひかり

てへへ、夜遅くまでお仕事おつかれさま

ひかり

――それで、用事ってなんなんだろ?

言いながら、小さな子どもが飛び乗るように、留奈が座るベンチの隣に腰を落とす。

留奈

その、まずは……ごめんなさい……

ひかり

…え?

留奈

楓の誕生日パーティー…行けなくて…

留奈

…せっかくひかりが企画した、楓の誕生日だったのに…。楓にもあわせる顔がないわ…

珍しくしおらしくして俯いてしまう留奈。

ひかりは、いつものように抱きつくわけでもなく、ただ、にこっと笑いかける。

ひかり

留奈ちゃん、気にしちゃダメー! お仕事は大事だよ。逆に無理に休まれたら、私たちが哀しくなっちゃう

ひかり

かえちゃん、留奈ちゃんからの誕生日プレゼント、すっごく喜んでたよ!

留奈

……そう。良かったわ

留奈が唇を噛む。

楓の誕生日を祝えなかったことを悔やんでいるのは、誰よりも、留奈本人なのだろう。

ひかり

てへへ~、いいこいいこ~

留奈

な、何するの? 撫でないでっ

留奈

……それで、本題だけど、楓の誕生日について少し相談があるのよ

留奈

……楓と留奈の誕生日って、すぐ近くじゃない?

ひかり

うんうん!

ひかり

てっへへ、留奈ちゃんの誕生日には、今度こそ3人揃えたら――

留奈

――楓にサプライズを用意したいの!

ひかり

……へ……?

留奈が、がばりとひかりに詰め寄る。

いつも、滅多に素直にならない留奈が。

ひかり

顔を赤くしながら。

ひかり

わわ

瞳に顔が映るほどの至近距離で。

ひかりのことを見つめていた。

留奈

る、留奈は、楓の誕生日に行けなかったじゃない! だから、楓が喜ぶことを、自分の誕生日に改めてやりたいの、えっと

留奈

だから、その為に……ひかりに協力してほしいの! わかった!?

言い終わると、照れくささに耐えきれなくなったらしい。留奈はぷいっと、すねたようにそっぽを向いてしまう。

留奈

…そういうことは、留奈よりもひかりの方が上手だとおもうから…

ひかり

わあ

ひかり

てへへ。留奈ちゃんに褒められたー

ひかり

もちろん! 協力するよ、するする!

留奈

……あ、ありがとう

留奈

と、とにかく! アイデアは考えてあるのよ!

留奈

楓に内緒で、お茶会を開催するのはどうかって

ひかり

お茶会?

留奈

――そう。楓はお茶が大好きでしょう?

留奈

だから、留奈の誕生日に、楓を内緒のティーパーティーに招待するの。どう?

ひかり

うんうん! かえちゃんならきっと喜んでくれるとおもうよ!

留奈

……そう、よかった。

妙にとげとげしかった留奈は、ひかりが乗り気なのを見てか、ようやくふっと笑顔をみせた。

留奈

もちろん、楓には内緒よ?

ひかり

うん! とびきりのパーティ、用意しちゃおうね!

人が喜んでくれる特別な日。こんなに素敵なことはない。ひかりはとびきりの笑顔で留奈に応える。

2人は、小指をからめて、内緒の約束を交わした。

そして……。

翌日。

ひかり

――シークレットライブ……?

ひかりにとって、想像だにしないことがおこった。

ひかり

もしかして、留奈ちゃんの誕生日に?

ひかり

(4月……3日……昨日、留奈ちゃんから同じような相談を受けたばかり…どうしよう)

はい。留奈さんは、わたしと、ひかりさんのファン第一号だと、いってくれました

だから、留奈さんにひみつで、留奈さんだけをおきゃくさんに、ライブをかいさいしたいんです

プロデューサー

へぇ、いいかもしれないね

きょうりょく、してくれませんか

ひかり

……

笑顔は保てたものの、頭が真っ白になった。

その間にも、とんとん拍子に話は盛り上がっていく。

ひかり

(違う日にしようっていうんじゃ、意味ないよね……)

留奈に、ティーパーティーの件は内緒にしてほしいと言われている。決して楓に内容を打ち明けるわけにはいかない。

そして今、楓は楓で、留奈を喜ばせるために、せいいっぱいの想いで、自分に頼ってくれている。

――どうですか?

――あの楓が、笑顔だった。

昨日見た留奈も、笑顔だった。

シークレットライブと、ないしょのお茶会。

どちらも大切で、どちらも台無しにすることなんて、できない。

ひかり

(……な、なんとか、しなきゃ)

不安は胸から去ってくれないものの、よぉしと、楓に笑顔を向ける。

ひかり

もっちろんだよ!

はい。ふたりだけの、ひみつにしてください

ひかり

二人だけの秘密なんて……キュンキュンしちゃうよー!

小指をからめて、秘密の約束を交わした。

ひかり

(留奈ちゃんの誕生日、チームの3人で揃えるようにできたらいいな)

ひかり

(でも一体、どうしたらいいんだろう……)

ひかり

(とにかく、留奈ちゃんもかえちゃんも、いっぱい笑える日に……しなきゃ!)

全ては、ただの優しさだった。

第3話 3人は、喜ばせあう

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