楓が、留奈の為にシークレットライブを開催したいと言い出した。
今日は楓とひかりを中心に、その企画会議をする…らしいが。
楓が、留奈の為にシークレットライブを開催したいと言い出した。
今日は楓とひかりを中心に、その企画会議をする…らしいが。
それでは、かいぎをはじめます
うん! まず話し合った方がいいのは、ライブの場所からかな――
ねえ、ひかり話が――
わー! わー! わーー! わーー!!!
って、なに、ライブ? 仕事の話なら留奈も混ぜなさい!
う、ううん、全然違うよ、チガウンダヨー! 用件はなにかなー、留奈ちゃん! 部屋の外で話そっか!
……ひかりさん、忙しそうです
……いつも一緒にいる留奈を引き離しながら相談というのも、なかなか大変そうな話だ。
高花ひかりは、最近いつも忙しそうにしている。
* * *
……そして、数時間後。
ここなら、どうでしょうか
うんうん! ここなら……留奈ちゃんにも見つからないし……!
改めての会議は、楓の実家にあたるレストランで行われることに。
近くで会ったつかさと八葉、唯も、よく分かってないまま仲間に加えられている。
これは、一体なんの集まりなんでしょうか? なんだかワクワクします!
……結局、何の集まり…?
ひ、ひかりさん…眼鏡……!
恐らく勉強関係の記憶だろうか、八葉は、ひかりの眼鏡姿にトラウマがあるらしい。唯の後ろに隠れてしまっている。
それは――
……うん、うん
僕が説明している間、当のひかりは、企画の概要をメモするスケッチブックを見つめてうなずきながら、眼鏡をくいっと指で上げている。
いつものひかりとは違う、ストイックな優等生としての眼差しが垣間見える。
ねえ。具体的に、かえちゃんはどういうライブをしたいんだろう?
ちょっと見せてみてくれるかな?
…どうぞ、かんがえてきました
アイデアを自分から晒すのは、さすがの楓も恥ずかしいのか、うつむき気味で、少しもじもじと身をよじらせていた。
ひかりに手書きの資料を読ませながら、語る。
まず、だれかじむしょの人が登場して、ぬいぐるみに話しかけて、にんぎょう劇をやります
言いながら、楓は身振り手振りで劇をはじめた。
しろひぐまくん。しろひぐくまくん。今日はなんのひか、しっていますか?
えー、わからないなー。なんのひ?
セリフの話し手が変わる度に、ぴょこん、ぴょこん。と飛び上がって、立ち位置を入れ替える。
じつはきょうは、るなさんの、たんじょうびなんだよ? にこにこ
アイデアがすごくかわいい! あと説明の仕方も!
(こくこくっ!)
唯が真剣な顔で首を縦にふっていた。
るなさんには、プレゼントがあるんだよ? と、しろひぐまさんがおおきな箱をだします
そのなかから、わたしがとうじょうして、いいます
ちゃらーん
つまり桃太郎ですね!
ちがいます
かえちゃんの入ったプレゼント箱……! 私もそのプレゼントほしいよぉ!!
だめです
……あ、で、でもね!
ひかりがアイデアに対して何かを言いそうになっていた。
厳しいことは、まずは僕から言った方がいい。
わざわざチームメイトの彼女に、そんな役目を負わせたくはない。
お客が留奈だけとなると、いまいち盛り上がりにも欠けるのかもしれないね
もっとサプライズ的にすればどうだろう?
留奈さんのお誕生日パーティー中に、いきなりライブをはじめちゃう、とかですか……?
わぁ……! それはとっても楽しそうですね!
でもそれだと、パーティーの余興っぽいかもね
……そうですね
できれば、留奈さんをよびだして、いつものライブみたいにしたいです
資料にはこのお店を使うって書いてあるけど、許可はとってある?
それは、これからです
やはりひかりの発言に、いつもより切れ味がある。
ひかりは、いつも無遠慮に人にすり寄っているようでいて、ちゃんと相手との関係が壊れないよう線引きに配慮している子だ。
何かしら無茶なことを言うときだって、人を傷つけるようなことは絶対に言わないはず……だが。
衣装とか、音響とか、選曲も決めないとね
持ち歌の振り付けは留奈ちゃんありきで構成されてるし、少し変える必要もあるとおもう
それも、練習する時間もあまりないから、あんまり負担にならない範囲で
……はい
ひかり、気負いすぎじゃないかな
留奈はきっと、楓とひかりが歌って踊ってくれたらだけでも喜んでくれる。そのことは、忘れないようにしよう
こんなにピリピリとしたひかりと楓を見たのは初めてだ。
楓もひかりの発言をかみ砕き切れてないようだったから、思わず、強めにフォローを入れてしまった。
しかし、ひかりどころか楓まで強く首を振ってくる。
それでは、だめです
うん。だって、留奈ちゃんが見たいのはそんなのじゃないと思うんだ
留奈ちゃんが一番喜んでくれるのは――
私たちの、アイドルとしてのライブ
正直、不意を突かれた。
GARNET PARTYとしての活動で、留奈に触発されて、ひかりと楓もそれだけのプロ意識が芽生えてきたんだ。
そういうことであれば! わたくし、たくさん裏方のお手伝いをいたしますっ
うん、私にできることであれば、喜んで
私も、裏方できます! 黒子とかやるの……得意な気がします!!
てっへへ、ありがと、つかさちゃん、唯ちゃん、八葉ちゃんっ
つづき、かんがえましょう
なんだかんだ言って、楓と企画を考えているひかりはとても幸せそうである。
そうして八葉や唯、つかさもまじって、五人でワイワイとライブの内容を考えていた。
んーっ! ふはぁ、少し、外で休憩してくるね!
その輪から一人離れて。
眼鏡を外して伸びをしたひかりが、席を立つ。
ひかり……? どうしたのかな? 疲れた?
う、ううん! 大丈夫だよ、なんでもないから!
明らかに影のある様子が気になって、ひかりの後ろ姿を視線で追いかけてしまう。
彼女は、店を出る前に、ぽつりと口を動かしていた。微かに音も拾えたから、唇の動きとあわせて考えると、何を言っているのかかろうじて分かる。
……わたし、どうすればいいんだろう
ひかりは、何かを抱えているようだった。