玉座から、傲慢な声は投げられた
玉座から、傲慢な声は投げられた
許す。表を上げよ
マルス王の言葉を受け
頭を下げたまま相対していたシチーリは
顔を上げ返す
偉大なるロイエ国王
マルス陛下、まずは
お礼申し上げます
この度は商人に過ぎぬ私に
御目通りをお許しいただき
感嘆の極みでございます
淡々と言葉を返すシチーリに
マルス王も感情の起伏を感じさせない
平坦な声で返した
世辞は要らぬ。外国人の貴様に
そこまでは求めておらん
それよりも本題へ移ろう
此度の戦、どれほど用意できる
貴様の国からは10億リブラ
供することが出来ると聞いておるが
さっそく金の無心かよ
ま、余計な手間が省けて
こっちは良いけどよ
んじゃま、始めますかね
楽しい楽しい、交渉を
思わず浮かびそうになる笑みを噛み殺しながら
シチーリはマルス王相手の取引を開始した
安いですな。何も無くとも
倍は出せます
ざわりっと
その場に居る者達の気配がざわめく
それはマルス王とて同じだった
虚言を許す気は無いぞ
貴様が外国人だとしてもな
当然のことでございます
偉大なるマルス王よ
たかだか20億リベラ
此度の偉業に投資する額としては
ささやかな代償にすぎません
ほぅ。ぬかしたな、貴様
此度の魔族討伐に関わる百万の軍勢
貴様が用意できると豪語した額なら
半月は戦わせることが出来るだろう
いえ、無理ですな
…………
マルス王の言葉を否定するシチーリに
王は黙り、周囲の気配が硬くなる
それを和らげるように
はははっ! さすがは大商人!
我らが王を前にして一歩も退かぬ
王のそばに控えていたレヴェルが
道化めいた気楽さで口を挟む
……口を開くことを許した覚えはないが
無機質な声で告げるマルス王に
いやいや、どうかお許し下さいませ
シチーリ殿があまりにも
歯に衣着せず道理を
口にされるものですから
ついつい、このジジィめの
口が軽くなってしまいました
……道理、か
レヴェルよ。貴様は
あヤツめの言が正しいと
そう言うのだな
はい。我らが偉大なる王よ
恐れながら申し上げます
ただ戦うだけならば
戦地への片道移動に掛かる
一週間分を含め半月戦えるでしょう
ですが、それでは士気の高さを
維持するのは困難かと
ましてや、死傷兵への補償や
帰還時においても金は掛かります
此度の戦の期間が
半月を予定しているとはいえ
少なくとも50億リベラは
必要となるでしょう
……ふむ
マルス王はレヴェルの言葉を
吟味するような間を空けると
この場に控える事を許した者達の内
もっとも若い男に問い掛けた
カイトよ。貴様は
どう考える?
……恐れながら申し上げます
良く通る声で
マルス王の「今の肉体」の兄でもある
カイトは言葉を返した
レヴェル殿の仰られる通りかと
戦いその物も費用がかさみますが
むしろ終わった後の補償問題などで
国庫からの補てんが問題になります
…………
無言のまま聞いていたマルス王は
…………
あきれ果てたようにため息をつくと言い切った
馬鹿者どもが。何を言うかと思えば
なぜ兵なんぞのために
そこまで心を割かねばならぬ
戦で全て使い潰してしまえば
良いであろうが
その声には
後ろめたさも罪の意識も
なに一つ感じる事は出来なかった