そも此度の戦の意義
貴様らは理解しておらぬ

     魔族との戦いで兵を使い潰す

  そう断言した王は、更に外道を口にする

増えすぎた愚民を
適正な数に戻す

それが此度の戦いの
第一の目的であろうが

          王の言葉に

     その場に居る者は口を開けない

  絶対の沈黙の中、王の言葉は止まらなかった

魔族の殲滅など
愚民どもを間引く
手段の一つにすぎん

そもそも、絶滅など
出来る訳が無かろうが

いや、絶滅などさせては
利用価値が無くなるというもの

これからも増え続ける愚民を
適度に間引き続けるためにも
あやつらを生かし続けておく必要がある

だというのに何を
勘違いしておるか

兵どもへの補償?
ただでさえ増え過ぎて
貴種たる王族をないがしろに
し始めているような愚民に
そんな物は不要であろうが

なればこそ、戦が終わった後の
補償など不要。どのみち全て
使い潰すのだからな

       平然とした王の言葉

    その言葉に顔を青ざめさせるほど

      憤りを感じている者が一人

ふざけるな……!

  食い込むほどに強く拳を握りしめながら

 カイトは声に出来ぬ想いを心の中で吐き出す

テトの体で、テトの声で
ろくでもないことを口にするな!

        愛すべき弟

   その体と声で外道を口にする王に

    カイトは憤りを隠せなかった

殺せれば……僕が殺して
終わらせることさえ出来れば……

        それは叶わぬ願い

   殺す事は、殺す事だけならば叶うだろう

     だが、殺し切ることは叶わない

      なぜならば、王を殺した者は

      王に身体を奪われるからだ

王の権能があるから
好き勝って言いたい放題だな
マルス王さんよ

     王とカイトの様子を見ながら

      シチーリは心の中で呟く

えげつなさすぎだろ
アンタのチートはよ

       マルス王が神より得た

        王の権能の一つ

         永久なる転輪
   (エンドレスリインカーネーション)

   それは王を殺した者に王の魂が乗り移り

     新たなる王の肉体となる能力

       その上、王の血縁に限り

      王の肉体が寿命であっても

     あるいは王が自殺したとしても

 王の新たなる肉体として乗り移ることが出来る

ある意味不死と言っても
良い能力だな。そのお蔭で
数百年を実質的に生き延びた

それだけならまだマシだが
問題は数百年前の価値観のまま
今も生きてるってことだ

人の命が今よりも
はるかに軽かった
そんな時代の価値観しか
持てないアンタは――

ありていに言って
バケモノだよ

  シチーリは言葉に出来ない想いを飲み込み

     あえて称えるように口を開いた

さすがです、王よ
今の世の形を憂い
在るべき形を望まれておられる

……随分と口が軽いな
世辞は要らぬと言った筈だが

とんでもない!
心より思っておる事でございます

ただ、もしお許し頂けるなら
一つ申し上げたい事が

……許す。述べよ

ありがたき幸せ
では偉大なるマルス王に
申し上げます

貴方さまの目的、まことに
素晴らしきことです

そして、その目的が成ったならば
確かに必要な金は少なく済むでしょう 

ですが、あまりにも
効率が悪うございます

……ほぅ

      僅かに興味を持った王に

    シチーリは道理を説くように言った

効率よく人を死なせるには
あまりにも足りません

王が望まれるは
此度の戦に参加する
全ての兵の死亡

ですが人は、容易くは
死にに行けぬものです

たとえ死地に投げ込もうとも
みじめに藻掻き足掻き必死に
生にしがみ付こうとするものです

確かに。下賤な者は
生き汚い愚物であるな

お前が、それを口にするか――

おいおい、こんな所で
暴発しなさんなよ

      心を乱しているカイトに

    シチーリは内心ひやひやしながら

        王に言葉を続けた

人が死にに行くには
理由が必要なのです
あるいは、目の前の死を
忘れさせる何かが要るのです

そのために、財は必要かと

死ぬために向かうとは
思えぬ立派な防具に武器
美味い飯に、叶うならば
奮い立つような良い女たち

その上で、成功報酬を
ぶら下げてやれば
その気になるってものです

餌をぶら下げてみせねば
ならぬという事か

浅ましいことよ

だが、確かにそなたの言
意味のある物と認めよう

余とて、そのことは
考えておらん訳ではない

死なせる為にも士気は
高いに越したことはない

成ればこそ、此度の戦
余も共に出征するのだ

余の権能は、余の言葉が直接
届く範囲までにしか効果が出ぬ
ゆえに、余が戦場にて常に鼓舞し
兵どもの士気を高めてくれよう

……王自ら、戦には
お出になられるのですか

然り。軍の実務を与えた
レヴェリと共に、カイトにも
そのことは伝えておる

この2人も、此度の戦には
同行することになっておる

同行ねぇ……

…………

  シチーリは僅かに視線をカイトに向け思う

予備の命ってことか
何らかの理由で自分が死んでも
即座に軍の統制が可能な人物に
乗り移れるようにしてるってことか

大した外道だよ、アンタは

   シチーリの内心に気付けない王は

   更に外道な計略を自慢げに口にした

言っておくが、此度の戦に
用意した策はこれだけではないぞ

兵どもの士気を高めるための
方法は他にも用意しておる

ミリア

……はい、陛下

     王に呼ばれたのは一人の娘

     騎士の姿に身を包んだ彼女は

ミリア……

       レヴェリの孫娘たる

       王の庶子の一人だった

       そんな彼女に王は――

ミリアよ、騎士たる汝に
王として命じる

我らが戦に赴くよりも早く
魔族どものはびこる地に向かい
そこで戦って来るが良い

立派に死んでみせよ
ミリアよ

     まるで誇りを口にするように

       己が娘に言い切った

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