ひかり

かえちゃんっっ!!!
お誕生日っ、おめでとぉ~~~っっ!

ただでさえ騒がしい事務所に、ひときわ大きなひかりの声が響き渡る。

ありがとうございます

ひかり

ああんもう、めでたいめでたいちゅっちゅっちゅ~だよ~!

くるしいのですが

と言いつつ、楓はいつもみたいにひかりを冷たく突き放さない。

プレゼントに囲まれて中心にちょこんと座る楓は、小さな体をされるがままになっている。

3月30日は楓の誕生日。

事務所のみんなでお祝いをしようという話になったのは数日前のこと。

仕事があるので、全員がそろっているわけじゃない。

それでも、楓の誕生日に、みんなからのプレゼントは用意されていた。

本人はささやかなものを希望していたらしいが、プレゼントにご馳走、ケーキと、けっこう本格的なパーティーのにぎわいになってしまった。

事務所内はとても騒々しい。

空子

楓ちゃん、えへへ、今日はまひろさんと協力して、ごちそうをたくさん作りましたからねっ

まひろ

まだまだありますから、たーんと食べてくださいね♪

ひかり

やったー! お肉だ、お肉だ、お肉だぁー!

まひろ

はいっ!お肉ですっ♪

七瀬

お。三春姉、お酌してくれるなんて気が利くじゃん

三春

ふふ。まぁ、こういう時くらいしかなかなか一緒に飲めないじゃない?

三春

……ほらほら、あやせちゃんは?

三春

…また、あやせちゃんのあの姿、見せてほしいわね

あやせ

だ、だ、だめですって! …飲んだら、絶対にプロデューサーさんを巻き込むので…

あやせ

で、でもせっかくだし、少しだけなら……

七瀬

めでたい席で遠慮は無用だよ。ほらほら飲め飲め~!

あやせ

ひええ……!どうなっても知らないですからね……!

つかさ

お酒……ですか

つかさ

一体どんな味がして、どんな状態になってしまうのでしょう?

つかさ

ああ、とってもとっても気になります……!

三春

ふふ、未成年はジュースだけよ?

千乃

千乃はね、美味しいケーキがたくさんで幸せだよぉ。はむはむ

とにかく、みんな好き勝手にワイワイしている。

みなさん、ほんとうにありがとうございます

こんなふうにおおぜいのひとにかこまれておいわいされたのは、はじめてのことです

たのしい、ですね

表情はあまり変わらないのだけど、頬が少し朱色に染まっている。

楓は大人しい子だし、あまりこういう雰囲気は好きじゃないかもしれないという懸念があったのだけど、受け入れてもらえて良かった。

ただ、もうしわけない気もします

いつももてなす側でいる楓にとって、中心に座らされているのはもぞもぞと落ち着かない様子も見られる。

けれど今日ばかりは、みんながテキパキ動いて楓に仕事を与えない。

プロデューサー

みんな楓の誕生日を祝いたくて仕方ないんだよ

プロデューサー

楓に日頃のありがとうを全力で伝えたいんだ

プロデューサー

楓がいてくれてよかったって、喜んでほしいって気持ちでいっぱいなんだよ。だからそれを受け入れるのが、今の楓にできる一番のことじゃないかな

……

僕がそういうと、少し不思議そうに、大騒ぎしているみんなの様子を見回した。

プロデューサー

……楽しんでる?

はい。とても

プロデューサー

あらためて、お誕生日おめでとう、楓

*  *  *

……宴の翌日。

昨日とうってかわってすっかり静まり返った事務所にて。

ひかり

はぅ……調子に乗ってお肉食べ過ぎたぁ~

先日食べ過ぎたひかりが、ソファーの上で休んでいる。

そんなひかりに、楓が近づいていった。

ひかりさん

ひかり

ん、なにかな、かえちゃん?

きのう、とてもとてもうれしかったです

ありがとうございました

ひかり

てっへへ

ひかりは寝そべりながら、笑顔と、とびきりのVサインで応えていた。

どうやら、ひかりが中心になってこのパーティーを企画してくれていたことに気づいたらしい。

思わず感心してしまう手際だった。みんなへの連絡や、費用感をおさえた飾り付け、司会、料理にいたるまで彼女がほとんど取り仕切っている。

パーティー1つで大げさかもしれないけれど、ひかりは、プロデュースする方面にも才能があるのかもしれない、と予感させられてしまう。

要領がいいのもそうだし、誰もが笑顔で、楽しくなれる場を作ることにひたむきだ。そして彼女自身も楽しんでいる。

ひかり

ただ……――

プロデューサー

……留奈が来れなかったのが、残念?

ひかり

てへへ

完璧に思えたパーティーでも、多少悔しさが残っているのだろう。

ひかりがてへへと笑う仕草には、パーティが終わった気の緩みからか、少しだけ寂しさが混じっているように思えた。

ひかり

でも、ピンのお仕事なんてすごいもんね! 頑張ってくれてるといいなぁ

すぐフォローを入れてくる。

最終的にスケジュールをとったのは僕だから。

たぶん、僕に責任を感じさせないよう、無意識に気を遣ったのかもしれない。

そのことで、ひかりさんにそうだんがあります

ひかり

ふぇ? かえちゃんが、私に相談……?

はい。わたし、きのうのパーティーが、とてもとてもうれしかったんです

ひかりさんを……その

みなおしました

ひかり

見直された! そんな風に思ってたの!?

あと

かんどう、しました

ひかり

か、感動?

ひかり

かえちゃんが、私に感動……!?

ひかりがオウム返しするだけの子になっている。

ひかり

これはもう結婚するしか……

しません

それで……わたしも、留奈さんへのおいわいをしたいとおもって

プロデューサー

そうだね。もうすぐ留奈も誕生日だしね

しーくれっとらいぶを、かいさいしたいです

ひかり

シークレットライブ……?

ひかり

もしかして、留奈ちゃんの誕生日に…?

はい。留奈さんは、わたしと、ひかりさんのファン第一号だと、いってくれました

だから、留奈さんにひみつで、留奈さんだけをおきゃくさんに、ライブをかいさいしたいんです

プロデューサーのきょかさえあれば、ですが…

プロデューサー

へぇ、いいかもしれないね。いいよ、体への負担にならない範囲になるよう、僕も様子をみさせてもらうけど

ありがとうございます

というわけで、ひかりさん。きょうりょく、してくれませんか

るなさんがかんどうして、すごくよろこんでくれるライブを、ひかりさんにいっしょに、かんがえてほしいんです

ひかり

……

話の途中から、ひかりは笑顔になっていた。

食べ過ぎで苦しんでいたのも忘れて、飛び跳ねそうなくらい。

ひかりの答えなんて、聞かずとももう分かっていた。

―ーどうですか?

ひかり

もっちろんだよ!

はい。ふたりだけの、ひみつにしてください

ひかり

二人だけの秘密なんて……キュンキュンしちゃうよー!

小指をからめて、秘密の約束をしていた。

僕が聞いてしまったのは数に含まれていないのだろうと、苦笑が漏れた。

第1話 楓の誕生日

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