俺は三村の話に聞き入っていた。
真剣に聞いていた。
この話は生半可な覚悟では聞いてはいけない。
そう思った。

ほんとは本人から聞かなきゃいけないことだ。
それをこうやって、他人の口からきいている。
少しの罪悪感を抱えつつもしっかりと聞こうと、覚悟を決める。
三村はゆっくりと思い出すように話す。

三村

あれはむっちゃんが中学校1年生の時の話

三村

お姉さん……、あたし達からしたら1学年上ね。
あたしたちの1つ上の学年がひどいいじめが横行しててね、お姉さんがその対象だったの。
最初は違ったらしいんだけど、目を付けられちゃって、それで、お姉さんは激しいいじめにあった

三村

むっちゃんとお姉さんは家庭の事情で別々に暮らしてて、中学は別だったし、私もお姉さんとは違う中学校だったから直接は見てない。
直接聞いてない。
でも本当にひどかったらしいの

三村

序列の世界だから先生たちもなかなか手出しができなくて。
それでいじめに耐えかねて、お姉さんは不登校になった。
それで終わってくれたらよかったんだけど……

終わらなかったのか?

三村

……お姉さんは逃げるようにむっちゃんのお家にきたの。
学校関係者から逃げるようにね。
それが、もしかしたら結果的には悪かったのかも知れない

……

三村

ある日、むっちゃんの家に女の人が訪ねてきたの。
……お姉さんが隠れてるむっちゃんの家に

三村

むっちゃんはお友達かなって思ったんだって。
だって、それ以外にわざわざ来ないでしょ?
学区も違うし、そこそこ距離もあるし。平日だよ?
ほんとにわざわざって印象になるでしょ。
私もそう思うし、むっちゃんもそう思った。
でもね、その女の人が来たその日の夜、自宅のマンションから飛び落りちゃったの。
お姉さんが

三村

むっちゃんとお姉さん。
すごく姉妹仲が良かったの。
お姉さんも序列は高い方だったし、頼れる人だった。
だからほんとは、いじめで不登校になってたってこともどこか私たちは現実味がなかったの

三村

だからお姉さんが最後に言った一言がむっちゃんは衝撃を受けた。
まだ子供だったしね

最後に言った一言?

三村

うん。
むっちゃんのお姉さん。
死ぬ前にむっちゃんに会ってるんだ。
最後に話したの、むっちゃんなの

どう伝えようか迷ったようなそぶりを三村はした。
そのタイミングで俺が頼んでおいたサラダが来た。

三村

……とりあえず、サラダを食べなよ

話折って悪いな

三村

ううん。
食べて食べて

務めて明るく話そうとする三村。
一体これから何がそんなに話しづらいというのだろうか。
すでに一番話辛い自殺ポイントは終わってる気がするのだが。

三村

うーん。
えっとね、この話ってこの高校にいるからには避けて通れない登場人物がいましてね

誰だよ

三村

うーん

なおも言い辛そうにする三村。

三村

あー、えっと、外部生の金島君は知らないかもしれないけど、1個上に南波悠美さんているの知ってる?

南波……えっと、去年の事件の人?

三村

おお、見たことある?

……今日二階堂に写真見せてもらった

三村

あの人なの

は?

三村

むっちゃんのお姉さんをいじめてた人。
あの人なの

三村

あたし、むっちゃんに頼まれて、最後の日に会いに来た女の人を見つけたの。
その人は、南波悠美先輩だった。
当時の中学校の女子の1位だった人

三村

そんでもって、この学校で去年問題起こした人だったの。
南波先輩はお姉さんになんて言ったのかはわからない。
でも、どうしても次の日学校に行かないといけなくしたんだと思う。
脅したのかなんなかはわからないけど。

三村

だから、ほかに選択肢がなくて、きっと……

……お姉さんは最後に、一条になんていったんだ?

三村

……

知らないのか?

三村

……あんたも一位なのねって

それはきっと、一条を深く傷つけたのだろうと、三村は言った。

一位になるにはそれなりにプレッシャーもあるし、努力も必要だ。天性の才能だけではどうにもならない。一条は、姉に憧れて一位を目指していたらしい。

テーブルに置いてあったお冷を一気に飲んだ三村は、悲しそうな顔をしていた。
俺は何となく納得した。

一条が自分をどうでもいいという意味。
一条が自分をないがしろにする意味。
俺が、何となく一条のことが気になってしまう意味。

仲の良かった姉が、序列によって壊された。
似ているんだ。俺の過去と。
だから俺は、何となく似た雰囲気を持つ一条が気になってしまうんだ。

この世界のすべてに意味を見いだせないでいるあいつの、自分の価値を見いだせないあいつのそんな気持ちに、俺は惹かれたのかもしれない。

三村は続けた。
姉が最後に放った言葉が一位である憎い女と同じモノであるという軽蔑だったのだと。
同じとみなされて、一条はきっと、辛くなったんのだと。

だから、きっと序列を恨んだのだと。
正当な評価を出すといわれている序列に、反抗しているのだと、三村は俺に告げた。

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