電車を降りて向かった先は、何の変哲もないファミレスだった。
学校から少し遠いせいか、同じ制服を着た人間は見当たらなかった。
奥の席へ通された俺たちは適当に食べ物を頼んで、話を始めた。
電車を降りて向かった先は、何の変哲もないファミレスだった。
学校から少し遠いせいか、同じ制服を着た人間は見当たらなかった。
奥の席へ通された俺たちは適当に食べ物を頼んで、話を始めた。
で、むっちゃんの話が聞きたいのよね?
ああ
三村は難しい顔をしながら話をぶった切ってきた。
その前にどこでキュンてきたの?
誰が言うか
いえ
いやだ
教えないわよ?
……気が付いたら
きっかけはあったでしょぉ!?
無言を貫いてやろうと黙っていると、じぃっと三村は俺を見つめてくる。
こいつは何が何でも話を聞き出す気だ。
さすが役員。
粘りのプレッシャーはすさまじい。
……たぶん、名前呼ばれてから意識して
中学生か!
一緒に閉じ込められたとき、さみしそうで
同情心!?
そんなあいつがすごいきれいで
変態!?
助けられたときにあいつがとても遠くに見えて
そうして僕は彼女のことが好きになり始めたのです。
変なナレーション入れてんじゃねーよ
へへ。
でもまぁ、むっちゃんきれいだもんね
俺の話聞いてた?
ドキドキしちゃったんでしょ?
お願い会話して?
タイミングよく三村が頼んだケーキが出てきた。
ファミレスのケーキなんてどうせ冷凍だろと思ってみていたら、解凍が間に合っていなかったみたいで、三村は硬いケーキを一生懸命切っていた。
ざまあみろ。
ほら、もういいからあいつの話教えろよ
どのあたりが聞きたいの?
ケーキと格闘しながら三村は聞いてくる。
視線と意識がケーキに向いているのが何となくさみしいが、ここは無視することにしよう。
三村が何か話してくれる気配を優先しよう。
俺、ケーキに負けてるとか思わない。
手始めに好きな食べものは?
嫌いな食べ物がない
……好きな色は?
嫌いな色がない
……好きな漫画は?
嫌いな漫画はない
……す、好きなタイプは?
ケーキとの格闘を止めた三村は、ぽそりといった。
……むっちゃんは、人を好きにならないと思う
なんで?
いろいろあってねぇ
でも、金島君が聞きたいのはそこじゃないよねぇ?
再びケーキと格闘を始めながら三村は言う。
みやちゃんと仲がいい理由?
序列世界で無関心でいられる理由?
……それともまだほかに茶番を続ける?
私はそっちの方がうれしい
三村は思ってもないことを言う。
表情でバレバレだった。
……本題は東宮さんとのなれ初めと無関心の理由聞きたかったんだけど、その感じだとほかにもあるな
今日は金島君が聞きたいことにだけ答えるよ
ちらりとケーキから俺に視線を移して三村は言う。
……わかった
まずは東宮さんのこと
ケーキを一口食べて、三村は口を開く。
みやちゃんとむっちゃんは小学校が一緒なの。
実はむっちゃんて小学校までは一桁常連で女子で1位争いをしてたの、みやちゃんと
だから戦い方がどうのって
今だって頭はいいし、ちゃんとすれば顔もかわいいし、そのほかもずば抜けてるはずなんだけど、絶対に本気を出さないよ。
それがむっちゃんの思いだから。
肝心なところで手を抜く。
だからあんな中途半端な位置なの
そのこと知ってるやつは?
いるけどなんにも言わないよ。
誰だって手を抜きたいときはあるだろうし、まぁ、いろんな理由があるじゃない?
上位に行きたくないとかさ
みやちゃんあたりは、そういうのは嫌いで、それとなく促してるみたいだけどね
みやちゃんのいた中学校って、序列内でのいじめがすごく激しい学校だったから序列に固執しちゃうみやちゃんの気持ちもわかる
でも、むっちゃんのあんまり目立つ場所にいたくないっていうのもすごくわかるのよね、あたしは
まぁ、そんな感じであたしは両方の言い分がわかるから何にもしない
二人のなれ初めはそんな感じ。
単純に幼馴染だよ。
あたし含めてね
そうか
三村は再び、ケーキの切れ端を口の中に放り込んだ。
うまそうだ。
三村は咀嚼すると、テーブルの上のお冷を手に取ってこくりと喉を鳴らした。
分かるぞ。
甘いもの食べると口の中が一瞬変な感じになるよな。
なんてことを考えながら俺は話を続ける。
じゃあ、あんなに無関心なのはなんだ?
むっちゃんは平均的な自分でいたいんだよ
それも結構難しいけどさ。
平均でいたいの。
空気でいたいの。
正当な評価を受けたくないんだと思う。
まぁ、元がいいから手を抜いたつもりでもあれくらいの順位にはなるよ
で?
さっきから手を抜くとか、空気でいたいって言ってるけどなんか理由でもあるのか?
ここからはほんとにデリケートな話だし、むっちゃんはあなたに知られたくないと思うけど、どうする?
俺はどうして、一条があんなにつらそうにしているのか気になる
知りたい
ほぼ誘導尋問で、きっと三村が俺に教えておきたいであろうことを質問する。
聞きたいか、そうかそうか。といいながら三村は少し考えるようにケーキを食べる。
ケーキを先に片付けたいのか、それとも言いたくない話なのか。
さっきされたように、俺は三村が口を開くのをじっと待った。
……むっちゃんはね、序列を恨んでるの
ゆっくりと三村は話始めた。
さっきまでの口調とは全然違う。
本当に大切な話をするような口調だった。
恨んでる?
うん
むっちゃんは序列にお姉ちゃんを
殺されたの
周りの騒音の中でも、その言葉だけがはっきりと聞き取れた。