それきり、東宮さんも黙るし、一条は当たり前に黙るし、三村と俺は途方に暮れてそのままその場を後にした。

教室へ向かえば、東宮さんは帰るといってそのまま帰った。
三村と俺と一条は成り行き上、途中まで一緒に帰った。

だって俺たち乗る電車がおんなじだったんだ。
俺、今日初めて気が付いた。
おんなじだったんだ。

そして、一条が電車を降りていなくなった。
俺と三村は車内に残された。

……まぁ成り行きとはいえ、一条の足を引っ張って悪かった

三村

えー!
そういう気配りできるようになったんだね!

そりゃ、俺だって少しは周りをみるさ

三村

でも、今回はおあいこだよ。
あたしもちゃんとむっちゃんのサポートできなかった

三村は見るからにしょんぼりした。

そういうもんかな。
俺からしたら、いくら友達とはいえな四六時中一緒にいるわけじゃないし、サポートも完璧じゃなくていいと思うし。

電車の心地よい振動に体を預けながら俺は口を開く。

一条のこと聞いていいか?

三村

むっちゃんのこと?

意外そうに三村は俺を見る。

三村

えー、嫌。
そんなペラペラしゃべって嫌われたらどうすんのよ

そこを何とか。
お願いだ

三村

だめです

なんかおごってやる

三村

なぁに!?

三村

あたしが食べ物でつられると思ってんの!?

どうやら接し方を間違えたらしい。
三村は電車の中にもかかわらず、大きな声をあげた。
周りの視線が集中する。

静かにしろって!

三村

あのね!
友達を食べ物で売るって思われて静かにする女がどこにいんのよ!

悪かったって。
頼むよ、静かにしてくれよ

三村

まったくもう。
失礼しちゃう

必死で謝れば三村は一瞬静かになった。
そこに、ねじ込むように再度頼む。しかし決して教えようとはしてくれなかった。
俺は、だんだん意地になって聞く。

だって、あいつおかしいだろ!

三村

むっちゃんはふ・つ・う!

さっきだって閉じ込められたとき、自分はどうでもいいっていうんだぞ!

三村

当たり前。
むっちゃんはそういう人

三村

最近はそれがなんか変な方向に向いてるけど、むっちゃんはほんとに自分より他人を優先する人なのよ

変だろ。
他人優先とかのレベルじゃなくて変だろ

三村

変じゃないです

へーんーだ!

三村

へんじゃなーい!!

一条が心配なんだよ、このやろー!

三村の動きが止まった。
俺は嫌な予感がした。

三村

らぶぅぅぅぅぅ!?

もういいよ、ラブでもなんでも

三村

ならしかたない

飯はだめで、ラブならいいのか?

三村

そりゃ好きな人を知りたいと思うのは仕方ないもの

……

三村

ラブなのよね?

三村はキラキラした表情で聞いてくる。

三村

らぶ?

……らぶだ

三村

きゃぁぁぁぁ!

三村

素敵!

小さな声で叫ぶという妙に器用なことをしてのけた三村は、嬉しそうに笑った。

俺は、ラブという感情までまで盛り上がってないことは決して悟られてはならないと、気合を入れる。

三村

分かった。
むっちゃんのこと教えてあげる

ここで?

三村

ばっかぁ!
場所変えるわよ。
次の駅で降りていい?

別にいいけど

三村

わー!
らぶかぁ……

能天気にラブだといい続ける三村に内緒だぞと釘を刺して電車を降りた。

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