……一条

一條

わかってる

すまん

一條

大丈夫よ。
仕方ないもの

俺は閉じ込められた用具準備室の中で一条にひたすら謝っていた。
事件は放課後に起きた。

先生に手伝いを頼まれた俺は、先輩のアドバイスに従って一条を仲良くしようと試みた。
一緒に手伝いをしてくれと、先生の前で言ったのだ。

そうすれば、一条が断れないと思って。
案の定、一条は断りきれずに俺と一緒に手伝いをした。
用具準備室といわれる物置から、明日の授業で使う地図やら何やらを探していると、不意に扉が閉まった。

一条は慌てて、手に持っていたものを投げ捨ててドアに駆け寄ったが、時すでに遅し。
鍵が外側から閉められた。

なぜ外に鍵を挿しっぱなしにしたのかと最初こそ文句を言われたが、途中から静かになって一条は地図を集め始めた。

用具準備室には電気はない。
中は真っ暗だった。
地図を集めると、一条は床に腰を下ろした。
それから数分が経った。

まさかこんなことになるとは

一條

どうせただのいたずらよ、すぐに弥生が来るわ

俺がいなかったら正直、こうはなってないよな

一條

そうね

はっきり言うな

一條

だって私から見てもあなたは戦い方を知らない。
私ならこんな初歩的なミスはしないわ

初歩的ねぇ

一條

ほんとに何にも知らないのね

一条はため息をついた。

一條

序列発表が終わってからの1年間はすべて勝負なのよ

一條

その間に陥れられることもある

一條

いじめられることも

一條

自分より下の順位の人間は少しでも上に上がりたいと思って挑んでくる

暗闇のせいかいつものより饒舌な一条がそこにいた。

上位のやつらはそんな感じしないけどな

一條

上位は関係ないわ。
大人だもの

一条の声はいつもと変わらず平坦だった。

一條

でも二桁はしれつな戦いよ

一條

100番台はもうあきらめるから大丈夫だけど

一條

二桁の戦いは覚悟しなきゃいけない

一條

こんなものは犯人捜してもらちが明かない。
中森君がそろそろガス抜きになんかイベントでもやってくれると思うけどね

イベント?

一條

そ、なんか楽しいこと

一條

あの人そういうのうまいのよ

へぇ

一條

……

……

再び訪れる沈黙。

中森のイベントってやつが気になるな。
クラス会とか?そんな感じか?でも学年全体だとめちゃくちゃ難しくね?逆になんか禍根生みそう。

そんなことを考えて、ふと俺は一条に聞いてみたいことを見つけた。

今の饒舌にしゃべる一条なら答えてくれるかもしれない。

なぁ

一條

なに?

あっさりと一条は返事をした。

お前って、なんで東宮さんと仲いいんだ?

一條

小学校が同じなの。
中学で別れちゃったけど

そうか

一條

うん

校区が違ったのか?

一條

そう。
ちょうどうちの学校って分裂するのよね

真っ二つ?

一條

うん

真っ二つという響きが気に入ったのか、一条は2、3度、真っ二つとつぶやいた。

笑うか?と思ったけど、そう簡単には笑わないらしい。
またいつもの空気に戻った。

一條

……弥生遅いわね

そうだなぁ

一條

まぁ、弥生じゃなくても二階堂さんあたりが気づいてくれれば……はぁ

一条は言いながらあきらめたようにため息を吐いた。
俺にはまったく意味がわからない。

二階堂だって気が付いたら助けに来てくれるんじゃないだろうか。

確かにあの女は中森以外興味ない感じあるけど、結構いいやつだぞ。そういうところは。

なに?どうした?

一條

四崎さんはこういうのめんどくさがるから、二階堂さんに伝わってないだろうなって思ったの

混乱する俺に一条は一言返した。
そして、外を伺ってつぶやいた。

一條

みや子気づいてくれないかなぁ

一條

弥生が邪魔されてたら気づかないか

東宮さんもめんどくさかったりして

俺は、二階堂に聞いた内輪もめのことを考えながら口を開いた。

東宮さんも自分のグループとかあるだろうから大変なんじゃないだろうか。

一條

馬鹿ね、みや子はそんな子じゃないわ

しかし、一条は簡単に否定した。

誰だっけ、あの、運動好きな子

一條

金元さん?

そうそう

あの子のこととかあるんだろ、女子って

俺がそういっても、一条は東宮さんを信用しているようだった。
揺るがない信頼関係があるのか、まったく動揺していなかった。

一條

みや子はそういう子じゃない

でも、女子ってわかんないじゃん

一條

わかんないことないわよ。
みや子ってば本当に優しい子なんだよ?

ガチャリと鍵が開く音がした。
ドアに目を向けると、東宮さんが立っていた。
一条はゆっくりと立ち上がった。

一條

みや子

東宮さん

遅くなってごめんね

一條

弥生は?

三村さんは東宮さんの後ろから頬を膨らませながら出てきた。
だいぶご立腹のようだった。

東宮さん

あや子に邪魔されてるの見つけてね

東宮さんは困ったように笑った。

一條

金元さんまたやったの?

東宮さん

ごめんなさい。
あの子誤解してるのよ、あなたのこと

一條

誤解は慣れてるわ

一条はそういって一度言葉を切った。

そして、東宮の表情を見て、一言添えた。

一條

大丈夫。
あなたは気にやまないで

俺は一条がそんな繊細な気遣いを見せたことが意外だった。
正直、二人がなぜそこまで互いを気遣っているのか理解できなかった。

東宮さん

気に病むわよ、あなたにひどいことしたわ

一條

ほんとに気にしないで、巻き込まれた金島君がかわいそうなの

東宮さん

でも……

一條

みや子

一條

私のことは

一條

どうでもいいの

東宮さん

……

“どうでもいい”の言葉に、東宮さんと三村さんは悲しそうな顔をした。

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