どうしよう。

学年で一番の頭脳といっていいほどお勉強ができる俺は、困難な状況にぶち当たった。

絢香

すぅ、すぅ

目のまで好きな女の子が無防備に寝ている。

これは俺を信頼しているのか、男とみなしていないのか。

唐突に訪れた正解のわからない問いに、俺は困惑を通り越してパニックを起こしていた。

ことの発端は、なんてことはない。

絢香が俺の家に遊びに来たいと言ったことだった。

正直俺だって年頃の男の子だし、下心がなかったといったらうそになる。

……。

部屋だって片付けたし、シーツだって変えたし、意味わかんないけど枕元にティッシュまで用意して、さりげなく避妊具だって手の届く範囲に置いてって、別にそれはどうでもいいんだよ。俺だって健全な男子高校生だ。

だって仕方ねぇよ、俺だって初めてなんだぜ?彼女が家に来るの。

一体何をどういうつもりで来るのかわからないし、絢香に限ってそんなことないと思うけど、もしそんなつもりだったらなんにも用意してなかったとき俺がなんか恥ずかしいっていうか、どうしていいかわからないっていうか。

そもそもあいつなんで家に来るの?

やっぱりそういうこと?

女子って別にそういうの気にしないの?

俺の考えすぎ?

考え過ぎなの?

なんてぐるぐる考えていたら、すぐに時間は過ぎていき、絢香が家の前まで来てしまった。

絢香

久しぶりに家に来たー!

なんてはしゃいでたと思ったら、気が付いたら寝ていた。

俺のベットの上で!

千裕

……

なんでベッドの上なの?あったかかったの?寝心地よかったの?それともそういう振りなの?え?俺そういうこと求められてる?
いやいや、絢香に限ってそういうつもりないって。もしこれで絢香に手を出したら、ほら、俺嫌われちゃうよ。落ち着いて俺。とりあえず、落ち着いて。素数でも考えようか。

絢香

んっ

あああああ!
なんで寝返りうっちゃったかな?むしろなんで、スカートはいてんのかな?!学校帰りだからだよ!知ってるよ!そ、素数!素数を数えよう!素数!は、初めなんだっけ。ああああ!全然冷静になれない!

はっ!
布団だ!布団をかけよう!
むやみやたらに足が出てるのがいけないんだ!足!そう!
この無造作に投げ出された足がいけないんだ。布団をかけよう。そうしよう!

俺は欲望を押し殺して、理性を最大限に引っ張りだして布団をとろうと絢香に近づいた。

絢香

んぅ、ちひろぉ?

ちょうどいいタイミングで絢香が目を開けた。

絢香

……

千裕

……

絢香の目に蔑みの色がこもった。

千裕

違うよ?

俺は精いっぱいの笑顔でいった。
ほらほら、こわくなーい。
俺なんにもしてなーい。

絢香

……帰るわ

千裕

待て待て待て!俺何にもしてないじゃん!

絢香

未遂だわ!

千裕

何にもしてないわ!

絢香

……

絢香

ほんと?

千裕

ほんとほんと

絢香

そ、そうだよね!千裕に限ってそんなことしないよね!

千裕

う、うん?

絢香

だって千裕、あたしが嫌がることしないだろうし、優しいもんね!

千裕

う、うん

絢香

びっくりしたぁ!起きたら目の前に千裕いるからドキドキしちゃった!

千裕

ドキドキはしたんだ

絢香

だって彼氏だもん

千裕

彼氏……

絢香

それにしてもひどい誤解よね!ほんとに!千裕に限ってそんなことするわけないのにね!

千裕

あれ?なんだか俺悲しいぞ

絢香

もう!千裕ってば、そんなことしたらほんとに嫌いになるわよ!

千裕

俺一生手を出せないのかな

絢香

はぁびっくりした!ってかもうこんな時間!あたし帰らなきゃ!

千裕

お、送るよ!

絢香

いい!大丈夫!バイバイ!

そういって絢香は帰っていった。

ものすごい速さで帰っていった。

いろいろ考えていることはあったが。

俺は、絢香の寝ていたベッドで寝れるかなぁとそんなことを考えていた。

絢香

やっぱりまだ無理ぃぃ!!

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