あてつけのようにつぶやいて後ろに少し体重をかければ、ゆっくりと青空が見えた。
ざまぁみろ
あてつけのようにつぶやいて後ろに少し体重をかければ、ゆっくりと青空が見えた。
小学校に入った時、あたしはとても居心地がよかった。
もともと幼稚園から注目されやすい性質で……だって顔がよかったから。
それで小学校に入学してもやっぱりみんなの中心に入れて、簡単に言ってしまえば楽だった。
恐怖がなかったといってもいい。
少数に嫌われても、あたしは構わなかった。
だって、その他大勢がみんなあたしのこと好きだったから。
悠美ちゃんってかわいいよねー
悠美ちゃん、一緒に遊ぼうよ!
みんなあたしを中心に行動していた。
あたしはいつだって笑顔を携えていた。
だって、そうすればみんな喜ぶから。
みんなにとってのあたしの価値はアクセサリーだと思ってたから。
そんなときだった。
教室の隅であたしを不思議そうに見つめる視線を感じ始めたのは。
最初はよく一人でいる子だなってそう思っていた。
ほんとに一人。
男子といるわけでも、おとなしい子といるわけでもなく、ただただみんなの輪に入れないって感じだった。
近くの子に聞いたら、その子は入学してこっちにきて、全然お友達がいないらしい。
ふーん。
最初はそれだけしか思わなかった。
ある日、その女の子と体育でペアを組むことになった。
よろしくね!
……よろしく
緊張した面持ちでそういった彼女は、悪い子ではなさそうだった。
悠美ちゃん、体柔らかいんだねぇ
碧ちゃんだって、柔らかいよ
碧は、体操教室やってたから
へぇ、すごいねぇ!
ううん。
そんなことないよ
自らを碧と呼ぶ幼さが残る子は、悠美の顔をかわいいねなんて一言も言わなかった。
それが、たぶん初めに興味を持ったきっかけだったと思う。
南波悠美は、小さい頃から少しだけませていた。
人の心をつかむ方法が少しだけわかっていたといってもいい。
さすがに先生は無理だったけど、でも、クラスのみんなくらいならどうとでもなった。
それは、笑顔の魔法だった。
一生懸命やって、最後は笑顔で終わらせる。
あたしにできないことはあってはならなかった。
いつも笑顔でやり切らなければならなかった。
そう、たったそれだけであたしは人気者になれた。
その作った人気に碧だけは不思議そうな顔で見ていた。
ある日碧は、ふとあたしに言った。
悠美ちゃんって、変な顔で笑うのね
悪気のない碧の一言であたしの世界は一変したんだ。
最初はただの悪口だと思った。
ひどいこと言うのね。
その言葉は喉の奥で使えた。
この前、悠美ちゃん、かわいく笑ってたよ。
あんな感じで笑えばいいよ!
碧、友達いないから悪口言わないよ!
碧の前でなら、悠美ちゃん、普通でいいんだよ!
正直、日陰者だと思って下に見ていた。
碧は、あたしが相手をしないとクラスの輪に入ってこないから。
てっきりあたしが上だと思っていた。
それも大概失礼だと今では思うけど、でも、そんなことを思っていた子に、あんなことを言われて、混乱した。
でも、この子は、ちゃんと悠美を見てくれたんだって、思った。
碧ちゃんさ
なに?
お家どこ?
え?
悠美ちゃんのお家の近くだよ
一緒に帰ろうよ
うん。
悠美ちゃんが嫌じゃないなら
ううん。
お話聞いてほしい
いいよ!
碧ね!
お友達いないの!
だから、秘密、守れるの!
……碧ちゃんのお友達は悠美だよ?
?
今日からお友達!
親友!
わぁ!親友!
うれしい!
とても愛らしく喜ぶ碧はとてもいい子で、それからずっと一緒に帰った。
時には喧嘩もしたけど、でも、あたしはたちは仲良く過ごしていたんだ。
3年生のあの時までは。