学校とはつくづく恐ろしい。

あんなことがあったのに、普通に次の日は授業だったし、さすがに先生からのお話はあったけど、それ以外はすべて普通だった。

あの、フラフラな状態の泰明もがんばって序列の繰り上げの通達は出したし。

そう、普通の日常がそこには流れていた。

悠美なんて初めからいなかったように、普通の日常が始まっていた。

絢香

碧ちゃん、学校まだ来ないの?

悠美が目を覚ました時に、一番最初に視界に入れさせたいんだって

絢香

ある意味めっちゃホラー

というか、一番ホラーなのって、2人も退学したのに、なんてことない顔で過ごしてるクラスメイトめっちゃホラー

それを言ったら、真面目に学年秩序に奔走する千裕君ホラー

拓也

使い物にならない泰明が幽霊みたいでホラー

絢香

もう、みんなホラーっていいたいだけじゃない?

昼休み、そんなくだらない会話をしていると、千裕が戻ってきた。
 
どうやら、他のクラスでいじめっぽい何かが発生しそうになっていたのを止めてきたらしい。

絢香

どうだった?

千裕

ただの喧嘩だった。
みんな過敏になってんだよな

絢香

過敏にもなるよ、あんなことがあったんだもん

そんなことより、期末テストの準備した?

千裕

俺は大丈夫だけど

絢香

私も大丈夫だけど

……なんで二人はあんなことがあったのに、大丈夫なわけ

千裕

……それが上位の理由っていうか

拓也

僕もちょっと危ないけど、今度は三教科絢香に勝つ

絢香

ふっ。今回の私はすごいわよ。
負けないわよ

そんなことどうでもいいのよ!

絢香

千裕

拓也

首をかしげるあたしたちに、牧と匠はノートをもって近づいてくる。

あたし、数学と化学が恐ろしいことに全く分かってない。
中間の範囲からわかってない

おれ、英語とリスニングと古典と漢文……おれ、言語が分からない

絢香

落ち着いてよ匠、一応日本語は話せてるから

現国いけるかな?

拓也

匠はまず漢字覚えろよ

絢香

……牧、和博って化学とってもできるじゃない?
なんで頼まないの?

……集中できない

長嶺

いやいや、大丈夫だって、俺、そういうのちゃんと教えられるし

!?

長嶺

だから俺と勉強しない?
数学もそこそこできますよー

どっからわいてきた!?

長嶺

隣の教室から

そいういうことじゃない!

絢香

どうどう牧

絢香こそ、千裕君とどうなってんのよ!

絢香

はぁ?!
ど、どうもなってないし?
友達だし?

田島君

恋する乙女たち、うるさい

絢香

ご、ごめん

千裕

匠達やばいならどっかで勉強会でもする?

絢香

まぁ、わたし、別に特別勉強しなくてもいいし

拓也

僕、基本楽しいこと好きだし

あ、じゃあ、帰りにファミレスいこ!

長嶺

俺もいい?

べ、別に来たいなら来ればいいんじゃない?

絢香

じゃあ、そういうことで

さっさと帰る準備をしてあたしたちは学校を出た。
 
学校の外に一歩出てみれば、そこは、あたしたちの価値なんてちっぽけなもので、世界の一部に溶け込む。
 
悠美も、あたしも、世界の中ではちっぽけで、そのちっぽけな存在同士で戦っているんだと思うと、あたしは、どうしても悠美を嫌いになれなかった。
 

あたしと悠美はとても似ていた。
 
ただ方向が違っただけ。
 
悠美は別の道を進んだ、私なんだ。
 
正門をくぐり行動へ出た時、そんなことをふと考えた。

69時間目:戻ってきた日常

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