絢香

悠美?

大きく笑い声を上げた悠美がぴたりと止まった。

不気味な静寂があたりを包む。

悠美

なんでこんなひどいことするの

顔を上げた悠美は、とても悲しい顔をしていた。

悠美

返してよ

悠美

碧を返してよ

悠美

絢香ちゃん、友達いっぱいいるでしょ!
なんで悠美のお友達を取るの!?

絢香

とってない

悠美

とったじゃない!
碧に変なこと吹き込んで!

悠美

碧はこんなことする子じゃないもん!
悠美のお友達だもん!

友達だから止めたんだよ!
もうやめようよ!
昔の悠美に戻ってよ!

悠美

何言ってるの?
今更やめられないよ。
碧のためにやってるんだよ

あたしそんなこと……

悠美

だって、碧、あたしが守らないとまたいじめられちゃう。
学校来れなくなっちゃう

かもしれないけど、こんなことよくないよ

悠美

だって、守れない!
高位にいなきゃ、碧のこと守れないんだよ

碧、守ってほしいなんていってないよ!
そんなことしなくても友達だよ

悠美

やめてよ、碧、そんなこと言わないでよ

駄々っ子のように首を振って碧ちゃんの言葉を拒否する悠美は、あたしの知っているしたたかな悠美じゃなくて、とても弱い女の子だった。

悠美、もうやめようよ

こんなこと、良くないよ

その言葉に反応するように、ゆっくりと悠美は口を開いた。

悠美

あたしが今まで何人不幸にしてきたと思ってるの?

悠美

10人?20人?

悠美

今更、引くなんてできない!
あたしの人生否定してないでよ

悠美

あたしは、南波悠美はこうやっていきてきたのよ。
それを今更……なんでそんなひどいことするの?!

悠美

ひどいよ、なんで突然そんなこと言いだすの

悠美

絢香ちゃんになんか言われたの?

支離滅裂なこと言いながら碧ちゃを怒鳴りつける悠美に、碧ちゃんは青ざめながらもしっかりと言葉を返す。
 
たぶん、それは悠美をとてつもなく追い詰めている。

絢香ちゃんは関係ない

悠美

あたしが悪いの?
碧がそんなに怒っちゃうほど、あたしから離れるほど、そんなに悪いことした?

悠美は、碧のためかも知れないけど、悪いことしたんだよ。
だから、悠美がちゃんと反省するまで、碧は付き合うよ。
だからもうやめよう

悠美

……めて

え?

ぼそりとつぶやいた悠美の言葉は、否定だった。

悠美

やめてよ!
そんな目で見ないでよ

絢香

悠美?

悠美

そういうこと?
絢香ちゃんの最後の一手って、悠美から碧を取りあげることなの?

悠美!

悠美

っ、……あ、碧はいい子だもんねぇ、絢香ちゃんの口車に乗せられることだってあるよねぇ

突然入ったスイッチ。
 
でも、碧ちゃんは決して許さなかった。

そんなんじゃないってわかってるでしょ!

泣きそうな悠美は、顔を歪めて叫ぶ。

悠美

やだ!
碧がそっち側に行くのなんてヤダ!

悠美、お願い、ちゃんと現実見てよ!

悠美

嫌い!嫌い!
絢香ちゃんなんて大っ嫌い!

悠美、絢香ちゃんは関係ない!

碧のことちゃんと見て!

その言葉で、視線が絡むのが分かった。

悠美

……碧のばか。
碧のこと、守りたかっただけなのに

悠美

碧は悠美の味方じゃないの?

味方だよ。でも、悪いことしちゃ、ダメでしょ?

俯いた悠美が顔を上げた時には、いつもの笑みに戻っていた。
 
強く、美しく、腹黒い。
 
南波悠美がいた。

悠美

大嫌い。
絢香ちゃんのせいだよぉ。
絢香ちゃんがいなかったら碧が悠美から離れることなかったのにぃ

悠美

最悪の気分よ

ゆっくりと上品に演説をするように、悠美は窓枠に腰をかけた。

悠美?

悠美

ねぇ、碧

外を眺める悠美はとても、繊細に見えた。

悠美

……ざまぁみろ

きれいに微笑んで、悠美はゆっくりと後ろに体重をかけた。

??

悠美!!






誰かの叫び声が聞こえた。

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