久々に登校した学校は、とても不気味だった。
 
学年全体が、あたしに対する敵意があるのだけれど、膠着状態っていうか、手を出したくても出せないっていうか、そういう空気を感じていた。
 
教室に入ると、千裕が席に座っていて、それを遠巻きにクラスメイトが見ていた。

絢香

おはよー

千裕

おはよ

絢香

なんなのこれ

千裕

俺も学校来てビビった、なんだこれ

絢香

千裕も分かんないの?

千裕

結構真剣に分かんねぇ

絢香

二人して首をかしげる。
 

と、黒田君が、近づいてきた。
 
こりないやつめ。

黒田君

ま、松崎

絢香

何よ

黒田君

け、怪我、したんだってな

絢香

そうよ、何か問題が?

黒田君

ざ、ざまあみろ

小物みたいなセリフを吐き捨てて走って自分の席に戻った黒田君。

絢香

なに?あれ

千裕

なんかこう、一番最初に倒される雑魚キャラだよな

絢香

いや、違うよ、名乗りあげてる間に、違う場所の流れ弾が当たって死ぬやつだよ

千裕

ああ、そっちの方がしっくりくるかもな

学校の微妙な空気は結局、放課後まで続いた。
 
いじめ自体も、黒田君のみたいに、みんなが逃げながらやるから、もうあたしをいじめることが義務化でもされてるんじゃないかって、あたしは、勝手に想像してしまった。

絢香

今日は、なかなか面白かったわね

千裕

なんかお前に突っかかりたい奴が俺を見て逃げていく感じな

絢香

やっぱりこの前のが怖かったんじゃない?

千裕

自分たちは暴力ふるっといてか?

絢香

まぁ、それも虫のいい話だけどね

悠美からの接触は一切ない。
 
声もかけられてないし、視線も会わされてない。
 
向こうは向こうで、みんなに可哀想がられているから。

だから、全然話せてないけど、牧を見れば、頷かれる。

絢香

じゃあ、悠美が移動したら移動しようか

千裕

そうだな

絢香

千裕は、隣にいてくれなくていいからね

千裕

そんな保護者みたいなことしないって

絢香

ドア側にいて

千裕

悠美が逃げないようにって?

絢香

乱入者が来ないようにだよ

千裕

この空気だもんな

絢香

すっごい気持ち悪い。
この、みんなのフラストレーション。
爆発しそうで怖いわ

学年の澱んだ空気は、私たちの大敵。
 
大衆は何をしでかすかわからないから。
 
警戒は必要だと私は思った。

65時間目:不気味な学校

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