昨日、血相を変えて碧が俺のもとへ来た。

あの時のリプレイみたいだった。

碧は、騒ぎすぎない程度に声を落として、

音楽室、絢香ちゃん

とだけ言った。

顔色と、焦った様子、血の気が引くのが自分でもわかった。

直ぐに立ち上がる。

しかし、碧の立場のこともある。

一年の教室のあるフロアを出るまで、必死に走るのをこらえる。

絢香のためだ。

絢香はきっと、ここで碧に変に疑惑がかかるようなことをすれば、悲しむ。

残りたった数十メートルしかないはずの廊下がやけに長く感じる。


早く、早く、早く、


気持ちだけ急いて、心臓が痛いほど動く。

階段にたどり着いた瞬間、走り出す。

階段をできるだけ飛び降りる。

足鈍い痛みが走ったが気にしている場合じゃない。

全力で走る俺に周囲が驚く。

すこし離れた音楽室まで、全力で走る。

息も整えず、音楽室のドアを開く。

誰もいない。
耳を澄ます。

碧は、音楽室と言った。

どこだ。絶対にここにいる。

視線を上げれば音楽準備室が見えた。

ここか。

激しくドアを叩いて、名前を呼ぶ。

絢香

……ぉ

微かに聞こえたく恐怖を含んだ声。

なんだ今どんな状況なんだ。訳が分からない。

恐怖を含んだ声はクリアに聞こえる。

ではどうして声が出ない。

声が出ないほどのことをされているのか。

絢香の声なら、聞き間違えない。

絢香が俺を呼んだ。

聞き間違えるはずがない。

ここを開けなければならない。

でも、開かない。

職員室に鍵を取りに行く時間もない。

学校の備品を壊せば、多分部活に響く。

絢香が嫌がることだ。

どうすればいい。

どうすれば、絢香の意思を尊重したまま絢香を助けられる。

絢香は既に身の危険を迎えているはずなのに。

蹴破らないとわかったのか、中で何やら話声がする。

どうすればいい。絢香を助けるには、どうすればいい。どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすどうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、れば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば……

絢香

ちひろ……

俺がどうしようもない思考にとらわれていると、恐怖に満ちた声が聞こえた。

絢香

助けて、千裕!

直後に骨の折れるような音と絢香の絶叫が聞こえた。

そこからは、どうなったのか俺は覚えてない。

気がつくと、男たちが血だらけになっていた。

俺は絢香を抱えて保健室にいた。

絢香は意識を飛ばす前に、泣きながら、

絢香

ありがとう

って言ってくれた。

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