絢香ちゃん、今日まだ学校来てないよ。
移動教室の時、ちょうど悠美の教室の前を通ったから覗こうとすれば、後ろから島崎が声をかけてきた。
絢香ちゃん、今日まだ学校来てないよ。
移動教室の時、ちょうど悠美の教室の前を通ったから覗こうとすれば、後ろから島崎が声をかけてきた。
なんで?
一位のくせに、自分の学年で起きたことすら把握してないの?
蓮見さんを見習ったら?
お前最近噛みつくようになったよな
噛みつかせるようなことをしたのは誰ですか?
長嶺のことなら俺も知らなかったんだって
知らないで済まされますか。
あなた一位でしょう?
俺が中学の時はこんなことなかったから加減が……
……この時間、蓮見さんは中庭にいます。
会いに行けってか?
序列役員としての進言です。
行ってください。
……わかったよ。
行ってくる
児玉泰明君。
なんだよ、改まって
あたしは、あなたを一生許さない。
木漏れ日の中、隠れるように置いてあるベンチ(誰かが勝手に持ってきた)に、蓮さんは寝ころんでいた。
寝ているのかと思って、静かに近づくと、蓮さんはガバりと起き上がった。
よう、問題児
……問題児とは失礼な
ふむ。
考えることを放棄した傍観者よ
突然RPG風に言われましても
で?
島崎さんにたきつけられてのこのこ来ちゃったの?
俺本気で蓮さんのこと怖い
たまたま、たまたま!
椅子に座りなおした蓮さんが、隣の席を叩く。
ここに座れということか。
俺になんか話があったんだろ?
話っていうか、島崎が話して来いって、序列役員としていうから……
ふーん
……
お前は俺になんか聞きたいこととかねーの?
なんでも話すぜ、言えることなら
今の俺は、間違ってますよね
そーだなー、間違ってるの定義によるんじゃねーの?
定義……悠美から見たら正解ってことですか?
なんだ、分かってんじゃん
俺、絢香のこと、守るっていっときながら信じられなかったんです
……ちょっと、たんま。
その話?
俺がこの時期に、あなたに話すとしたらそれしかないでしょうが!
この状況で恋愛トークとは思わなかったぜ
どうせ俺は平和ボケですよ
ちょっと、待ってな
蓮さんは携帯でどこかに連絡をした。
しばらく成り行きを見ていると、時間を確認した蓮さんが話しだした。
ちょっと、周りに聞こえなくした
そういう配慮がすぐにできるようになりたいです
どんだけ1位にいたかだろ
おれ、8年目なんですよ
俺9年目か?
連続なんですか
考えてみれば俺も連続だった
……俺も、そんな風に言えたらよかった
明るく、からりと笑う蓮さんを見て、俺はほんとにそう思った。
悩んでるなぁ、若人よ
世間一般常識的にはあなたも、若人ですよ
ひがむように言えば、思いっきり頭をガシガシと撫でられる。
悩め悩め。
俺から見たら、お前らみんなかわいい後輩だよ
……
絢香のこと、信じられなかったのはそれだけ好きだったんだろ
はい
序列に恋愛持ち込むくらいだもんな
やめてください、俺の汚点です
最近、なんで気づいたんだ
息がしづらいんです。
この学校。
というか、うちの学年
ふむふむ
学年の空気が澱んでる。
その中心に悠美と絢香がいる
それで?
最初は、絢香が澱みだと思ったんです。
でも、俺、最近気が付いきました
悠美は、俺に何も見せない。
俺を信用しない
それで絢香に戻ったのか?
それもありますけど
絢香の光は誰にも消せなかった
あの光に照らされてる場所はきれいだったから
もう俺の光ではないけれど。
俺が間違えたから、手を離したから。
俺は絢香を守るって思ってたはずなのに
頭に乗っていた腕は、ゆっくりと離れていった。
消えた熱を未練がましく思う。
お前、一つ間違えてる。
守ってたのは絢香だぞ
それだけ言って、蓮さんは颯爽と帰っていた。
取り残された俺は、次の授業をさぼろうとベンチに横になって気が付く。
蓮さんはこの時間、この場所を俺に譲ってくれたんだと。
俺はいつもすべてが終わってから、修正が効かなくなってから気がつく。
でも、引っ込みが付かなくなった俺はこの状況をどうにかしようとは思うものの、どうすればいいのか、全く分からなかった。
いや、分かろうとしなかったんだ。