数回の呼び出し音が鳴る。
相手は眠そうな声でおはようといった。
数回の呼び出し音が鳴る。
相手は眠そうな声でおはようといった。
おはようございまーす。
今日今からお家に行ってもいいですか?
はぁ?
髪の毛を切ろうと思いまして
あー?
……あー、うん。
わかった。
親に言っとく
お願いします
そういって、電話を切る。
そのままお母さんに連絡する。
あ、もしもし?
お母さん?
おはよ、どうしたの?
今日、午前中だけお休みの連絡してくれる?
いいわよ。
体調崩した?
まぁ、そんなとこ。
でも、もう大丈夫
そう。
わかったわ
再び電話を切って、今度は電源まで落とす。
鞄の中に携帯を入れて、戸締りと忘れ物のチェックをして、あたしは、家を出た。
いつもより早い時間帯の道路は、すがすがしかった。
そんな場合じゃないのに、あたしは、ほんわりとした気持ちになって、道を歩く。
もう、決めた。
あたしは、もう、決めたんだ。
それだけ、確認すれば、あたしはもう、昨日より強くなれた気がした。
少しだけ遠い家まで、時間をかけて歩けば、あたしの心は一通り整理が付いていた。
おはよーございまーす
透明のガラス戸をゆっくり開けると、なんの抵抗もなく開く。
いらっしゃい。
絢香ちゃん
朝早くにすみません
いいのよ。
で、どんな感じにするの?
バッサリ切ってください
椅子に座ってそんな話をしていると、蓮さんも支度を終えたのか、店内に入ってきた。
この店は、二階が住居スペースになっている。
学校に行くときは必ず店内を出入りすることになる。
おはよー
おはようございます。
そして、行ってらっしゃい
いやいや、俺もお前と一緒に行くよ
あらー、それはそれはありがとうございます
蓮さんを見ることなく言う。
蓮さんはさすがに罰が悪そうな顔をする。
わーるかったよ
思ってもないことを言うもんじゃないですよー
まぁ、うん、そこそこごめん
いいですけどね。
あたしはそれで一区切りつける決心できましたし
ふーん
で?
ん?
蓮さんの用事は終わりました?
鏡越しに蓮さんを見れば、頷かれる。
おかげさまでなー
ひどいですよね、ほんと。
そこそこどこじゃないですよ
お前だからぶつけたんだよ。
許せって
ムカつく。
自分の学年のことくらい自分の学年でやってくださいよ
でも、これで桐山と俺はこれ以上こじれないだろ
そうですね、来年は安泰ですね。
よかったですね
そうだな
あたしまで巻き込んだ意味ないですよね?
あたしがそういうと、先輩は突然真面目な顔をした。
お前を巻き込んだ意味ならあるぞ
……なんですか?
少し考えたけれど、思い当ることはなく蓮さんに聞く。
お前、忘れてねーか?
来年の全校序列が出るまでは、お前も競争相手なんだぞ
……えー?
まじめに
俺は、泰明より、千裕より、お前を一番意識してる。
南波を叩きつぶせば、お前の来年の序列は泰明を抜く可能性だってある
……それはないですよ
私は、女だもの
ふーん
ザクリザクリと髪の毛が切られていく音に気をとられていると、蓮さんは丸椅子を引っ張ってきて、腰を下ろした。
髪の毛きっちゃうんだ、お前
切りますよー
泰明ロングのが好きっていってた気がすんだけど
だからですよ
あたしはあの人を傷つけるから
思いっきりやらないと
そっか
もう本気なんだ、お前
あの人を甘やかして育てたあたしの責任です
あの人の周りの汚いものを全部遠ざけてた。
だから、こうなったのもあたしの責任
悪意を全部あの人から遠ざけたから、初めて汚いものを見たから、あの人は強い衝撃を受けた
汚いものを遠ざけ切れると思ったあたしのおごりが招いた結果だったから後手にまわったんです。
あたしに後ろめたさがあったから
でも、もう、そんなの関係ない
止めてほしいって思ってる子もいる。
あたしが傷ついたらものすごく悲しい顔をした友達もいる
あたしの勝手な罪悪感で何もしないのは
それはもう、あたしの罪だから
あたしは、あの人を傷つけます
……わかった
それだけ言うと蓮さんは雑誌のコーナーに移動した。
話し相手をしてくれる気はないようで、おばさんと二人でひどい人ねとこっそり笑った。