真っ暗闇の中、あたしは逃げていた。

 何かが追ってくる。

 そんな感覚だった。
 



 いや!
 やめて、触らないで。
 こっちを見ないで。

暗闇の中であたしは叫んでいた。
 
それは、あの時、あたしが口にしたくてもできなかった言葉だった。
 
そうして、何かから逃げていると、誰かが見えてきた。
 

その人に、駆け寄ろうとして、その人が誰か理解して、足を止める。
 
後ろから迫ってくるそれと、前にいるその人との間であたしは動けなくなる。
 
そうして、後ろから来た何かに捕まって叫び声を上げる。

絢香

また、か

自分でも驚くほど、目が覚めてしまえば冷静になれる。
 
汗で張り付く服が気持ち悪かった。
 
もう、何度も飛び起きている。
 
本当に、あたしはあの人がいないと、こんなに弱い。
 

そんな自分が嫌になる。
 
時計を見ればもう6時。
 
完全に寝不足だったけれど、今から寝たってどうせそんなに寝れない。

絢香

はぁ……

昨日から何度出たかわからないため息をついて、お風呂場に向かう。
 
昨日から何度お風呂に入ったか、もう数えることはやめていた。
 
シャワーを浴びていると、ふと、あることを思いついた。
 
ただの精神安定のためだけに浴びていたお湯を止め、外にでる。
 
少しだけ肌寒い部屋の中で身支度を整えて、携帯に手をかける。

絢香

……よし

小さくつぶやいた声は、思ったより、晴れ晴れとしていた。

52時間目:覚悟をきめて

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