南波悠美という女の子とは、小学校で出会った。
 

あたしは、小学校に上がるときに家が引っ越して、一人だけ誰も友達がいない状態で小学校に入学した。
 
入学式も一人だったし、一週間くらいはクラスになじめずにいた。
 
そんなときに、声をかけてくれたのが、南波悠美というかわいらしい女の子だった。
 
彼女は、近くにたくさん友達がいて、クラスの中心人物だった。
 
だから、なんであたしなんかに声をかけてくれたのかはわからなかったけど、それでもすごくうれしかった。
 

小学校1年生が終わるときには、よく分からないけど、親友になっていた。
 
もう、昔のこと過ぎてどうして親友になれたのかはわからないけど、確かにあたしたちは仲がよかった。
 


小学校3年生になった。
 
あたしたちは初めて、序列を知った。
 
最初にもらった序列は悠美が8位。あたしが21位だった。
 
悠美は、女子の中でダントツで、二人ですごーいなんて、話をした。
 
だんだんおかしくなってきたのは、3年生の夏休み明けだった。
 
あたしがクラスの男の子、確か序列は5位くらいの男の子に告白されてからだった。
 
小さかったあたしは、付き合うことがどんなことかわからなかったし、大体そんなに好きでもなかったからその男の子の告白を無下にしてしまった。
 


それが、良くなかった。

10月に入ったころ、あたしは、クラスの女子に呼び出された。
 
いじめが始まった瞬間だった。
 
理由は、ほんとに子供っぽくて、彼を好きな女の子がいて、その子が彼をかわいそうって思ったことが原因だった。
 
悠美は一生懸命止めようとした。
 
けど、男の子も頭に来てたみたいで、途中から男の子も加わって……あたしは学校に行かなくなった。
 
日々浴びせられる罵倒、暴力、抗えない序列。
 
小学校はなかなかにつらいものがあった。
 
そうこうしていると、学年が上がった。
 
義務教育とは素晴らしいもので、なんだかんだとあたしはほとんど学校に行かず、それでも進級をしていた。
 
そして、小学校4年生の4月の半ば、悠美が笑顔であたしに家に来た。
 
いやだったけど、悠美が誘うから、しぶしぶ学校に行った。
 
すると、状況は一変していた。

悠美の序列は4位まで上がっていた。
 
5位だった彼は、転校していた。
 
あたしをいじめていたあたしより上位だった女の子は、最下位付近にいて、いじめられていた。

あたしの序列は確かに下の方だったけど、悠美のそばにいる限り、いじめられることはなかった。
 
最初はあたしもその状況に甘んじていたけど、だんだんこれはおかしいと気が付いた。
 
あたしがいじめられたからって、いじめをしていいことにはならないし、何より、悠美にこんなことさせるのはすごく嫌だった。
 

だから、何回もやめてっていった。
 
こんなこと、良くないことだよって。悪いことだよって。
 
でも、悠美は決まって、笑って大丈夫としか言わなかった。

その女の子は5年生に進級するとき、転校してしまった。
 
あたしは、取り返しのつかないことをしてしまったって感じた。

それからも悠美は、みんなのストレスを解消するかの如く、いろんな子をターゲットにしていった。
 
悠美はそういうのがすごくうまいみたいで、面白いようにみんななんの罪悪感も抱かずにいじめをした。

あたしや悠美がいじめの対象になることはなかった。だれも、悠美に逆らおうなんて思わなくなっていた。
 
あたしは、クラスの隅っこにいたあたしに声をかけてくれた悠美に戻ってほしかった。
 
やさしく、演技じゃなく心から笑ったり泣いたりする悠美に戻ってほしかった。
 
でも、止める力がなかった。

中学校に入って彼氏ができた。
 
悠美に報告すると、そう。

とだけいって何も言われなくなった。
 
中学校はいじめとかのレベルじゃなくて、軽犯罪が横行していた。
 
あたしは、この学校にあっていないのか、すぐに浮き始めた。
 
でも、悠美がそのたびに守ってくれた。

だから、悠美にはなんでも話した。
 
彼と一緒にいて楽しいこと、喧嘩したこと、ずっと一緒にいたいこと。
 

あるとき、彼氏が事故にあったって聞いた。
 
慌てて駆けつけると、別れを切り出された。
 
悠美に怪我をさせられたらしい。
 
あたしは悠美と序列が始まって、初めて喧嘩をした。
 
悠美はすごく泣いたけど、でも、あたしのこといじめるでも仲間外れにすることもなく、あたしの怒りが落ち着くのを待っていた。
 
そうして冷静になったところで、悠美は言った。
 

先輩は転校した、と。
 

あたしは笑って話す悠美が怖くなった。
 
悠美はあたしを逃がすつもりはない。
 
恩を感じているあたしはそもそも悠美より下の立場なんだと、初めて理解した。
 
昔あった友情なんてもの、悠美はきっと覚えてないんだ。
 

高校生になって、悠美は絢香ちゃんのことを意識し始めた。
 
今までのようにいかないことがいら立っていたみたい。
 
そして、ついに絢香ちゃんに手を出した。
 
全然証拠を残さない悠美に、絢香ちゃんが苦戦していた。
 
だから、何気なく手助けできるところは手助けした。
 
悠美を止められる可能性があるのは絢香ちゃんだけだと思ったから。
 
悠美よりすべてが上だった。

ただちょっとコミュニケーションがうまくいかなかっただけ。
 
そして何より、絢香ちゃんはいつも強い人だった。
 
でも、結局は、悠美を止めることなんて誰もできなかった。
 
絢香ちゃんは攻めあぐねてる感じだったし、あたしは歯が立たないことも分かり切っていた。
 
ぐずぐずしていると、三宮君から急ぐように言われた。
 
三宮君はクラス全体を見て浮いている子や、困っている子をほっとけないタイプだったみたい。
 
いつかの悠美みたいにやさしい心を持った人だった。
 
でも、急ぐと悠美にばれそうで、あたしは困ってしまった。
 
そうしたら、翠ちゃんと紫穂ちゃんの暴走に気が付くのが遅れた。
 
最悪だ。
 
また、止められなかった。
 
いつもいつもおんなじような手口を使って、悠美は手駒の2人を動かす。
 
決して自分は手を汚さない。
 
気が付いて、走って向かった時にはもうすべてが終わっていた。
 
あたしは、悠美とまた楽しく生活したいだけなのに。
 
やさしい悠美に戻ってほしいだけなのに。
 
力のない自分がふがいなくて、悔しくて。

一番すがってはいけないきれいな光に、すがってしまった。

50時間目:あたしの中の南波悠美

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