カシャカシャとシャッターが降りる音がする。

泣いてたまるかと心を無にして少しすると、体の上から重みが消えた。

顔を上げると、下柳さんは真っ青な顔をして泣き始めていた。
 
それを見て、一つだけため息をつくと、桐山先輩はやさしく下柳さんを外へ誘導した。
 
実際、最悪な時間はそう長いものではなかったと思う。
 

……下柳さん。
あなた男性に興味ないからこんなことしてるけど、実際美少女が拘束されて服を切られてるって、高校生が好きそうなシチュエーションなんだから、置いてかないでよ。
 

心の中で余裕ぶっこいてみるけど、絶対最悪なことにはならないなんて保証、今はどこにもない。

桐山晃

さすがの元2位様もこれには涙が止まらない?

桐山晃

それは、悔し涙かな。
それもと恐怖?

桐山晃

まぁ、俺はどっちでもいいんだけどね

桐山晃

この携帯の中に君の恥ずかしい写真が入っている

桐山晃

これを使えば蓮見だって身動き取れなくなる。
南波も喜ぶ。
良い関係だと思わない?

桐山先輩に言われて、初めて自分が泣いていることに気がついた。
 
こんなの、最悪だ。
 
友達が離れたその日に、こんなの。
 
相談できそうな牧はもう近くにいない。
 
最悪。どうすればいいの。

開けて!

ここにいるんでしょ!
開けなさいよ!

ガチャガチャと大きな音がして、ドアがきしむ音がする。
 
助けに来てくれたの?

桐山晃

お、意外な人物の登場だな

絢香

……なんで?

千裕

桐山先輩ですか!?
ここを開けてください!

地面に転がったままのあたしの体を超えて、先輩は出口へと近づく。

桐山晃

じゃ、元2位さん。またなー

彼が出ていくと同時に、碧ちゃんと千裕が入ってきた。

絢香ちゃん!

駆け寄ってくる碧ちゃんと入り口で絶句する千裕。

それを見ながらごしごしと目元をぬぐうと、碧ちゃんはおずおずと袋を差し出してくる。

これ、ジャージ、あたしのだけど

受け取ると、碧ちゃんはあたしの胸に飛び込んでくる。
 
彼女は泣いているようだった。

ごめんね、ごめんね

嗚咽の中から聞き取れたのはその言葉だけだった。

泣いていて話にならない碧ちゃんをとりあえず落ち着かせながら、千裕を見上げる。

千裕

間に、あってないよな

絢香

千裕……

絢香

詳しいことはあとで話すけど、ちょっと、甘やかして

千裕

なにすればいい?

絢香

手を、握ってほしいの。震えが止まらないの

千裕

……

恐る恐る近づいてきた彼の手に、自分の手を伸ばせば、ゆっくりと、でもちゃんと握ってくれる。
 
人肌の体温がゆっくりと、じんわりとあたしの心を溶かしてくれた。

絢香

……はぁ

絢香

そっちは、何があったの?

手を握ってもらったまま聞けば、ぽつりぽつりと言葉が聞こえてくる。

千裕

そいつが、部活中に呼び出して、それで、一緒に、お前が、危ないって聞いて、一緒に

絢香

そう

絢香

ありがとう

必死で抑えた涙は、あたしの呼吸を乱すには十分で、声もださずに、体だけが揺れるあたしは滑稽に思えて。
 
あたしは、腕の中で泣く碧ちゃんに、強がりな視線を落とすのだった。

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