中間テスト発表の確認を終えたあたしは、先生に呼ばれて少し遅れて教室へ戻った。

トイレから戻ってきた牧に、後ろから声をかけられて、振り返ると牧は何にかいいたそうにしている。

絢香

どうしたの?

ちょっと、先に絢香ちゃんに言っておきたいことがあって

絢香

なに?

もしね、あたしが突然絢香ちゃんから離れたとしても、それにはちゃんと理由があるから

絢香

……この状況で突然はなれたとしても、あたしは牧に怒ったりしないよ

ごめんね、そうならないようにはするけど、そうなったらごめんね

絢香

ちょっと、何かやばいの?

えっと

牧が口ごもった瞬間に、教室の方が騒々しくなった。二人で教室を見れば廊下に人が続々と集まってくる。不思議に思い、そっと教室を覗けば、怒り狂った男子二人にビビリまくっている男子一人。

黒田くん、怖いならやめなよ

その声に無言で頷く。
ほんとそうだよ、いじめするなら報復されること込みでやんなきゃ。
というか、何したの黒田君。

千裕

誰だよ!絢香の机隠したやつ

教室から聞こえてくる声に首をかしげる。机って隠せる物なの?
見ていても要領を得ないので教室に入る。

絢香

どうしたの?ひとまず落ち着いてよ。
ほら、どうどう

見せしめのためか黒田君の胸ぐら掴んでいる千裕に声をかけると、怖い顔した匠が答えてくれた。

ふざけてる場合じゃないよ。
帰ってきたら絢香の机がなくて、黒田がにやにやしてたんだ

匠が指した方を見てみるとあたしの机がなくなっていた。
ぽっかりと開いたその空間は、あるべきものがない気持ち悪さを感じさせた。

絢香

……ちょっと、待って

千裕

なに?

絢香

黒田君って可能性なだけで実行犯なんて決まったわけじゃないんでしょ?

千裕

ほぼ確定だろ

絢香

こらこら、そういう思い込みで動かないでよ

拓也

絢香がそういうならいいけど、でも、机ないじゃん

絢香

どうせ下に落ちてるわよ

いつもなんだかんだ言ってもガチ切れしないメンツに突然どうした、と思いながらも、クラスメイトをかき分け牧と二人で窓から下をのぞき込む。

ほんとだ

一緒に窓から下をのぞいた牧の声が漏れる。

他のクラスの花壇の上に無残にもあたしの机と椅子が投げ捨てられていた。
花壇にはお花が綺麗に植えられていたみたいで他のクラスに申し訳ないことした。

絢香

ほらね、あったでしょ。
机の中には何にも入れてないから大丈夫よ

千裕

そんな問題じゃない!

そこまで怒ってくれる友達がまだいるだけで嬉しい。

絢香

いいから。
あんまり大事にしなでよ

 
少しだけ震えた語尾に、千裕がいち早く気が付いてくれた。

千裕

くそ!

黒田くんを解放した千裕はそのまま近くの机を蹴り飛ばす。

なに、机なくなっちゃったのがそんなに嫌だったのかなぁ。
麻痺してしまったいじめ感覚にあたしは首をかしげる。

あ、それより早く机回収しないと、5時間目始まっちゃう。
そう思ってあたしは窓際から離れて、きっと今連れて行くと使い物にならない千裕を通り過ぎて匠の手を引っ張る。

絢香

落下物とってくるから、匠手伝って。
他のみんなはここで荷物番よろしくー

反論を許さないように言えば、複雑な顔しながらも千裕は追ってこなかった。

42時間目:誰もかれもが(1)

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