一年の階の廊下を二人で歩く。

歩くだけですれ違う生徒達からありえないくらいの悪意がぶつけられる。
自然と握った手に力が入る。
安心させるように同じ強さで握り返された手。
下を向きかけた顔を上げる。
悪いことしてないのだから、堂々としなきゃダメだ。

3階にある1年の廊下を抜け、人気の少ない方の階段を下りていく。怒りが収まってきたのか、匠が口を開いた。

さすがに机がないときは驚いちゃった

絢香

あはは、そろそろ慣れなきゃね

こういう陰湿な奴って今までと種類が違う気がするんだ

絢香

だれだろうね

え?南波じゃないの?

絢香

うーん。
碧ちゃんは基本直接は手を出さないじゃない?
もともとあるネタを使ってくるタイプ。
翠ちゃんは武闘派だし、紫穂ちゃんは確かにねちねちしてるけど、こういう労働嫌いそうだし、悠美に至っては絶対こんな足のつくようなことしないし

じゃあやっぱり黒田?

絢香

とも思ったんだけどねぇ、黒田君とほぼ一緒に教室戻ってなかった?
最後に見た限り

そうなんだよなー

黒田が戻って結構すぐ教室入ったから、あいつも見つけただけっぽくて

絢香

じゃあ、ほんとに、黒田君って見せしめ?

いや、ただただ俺たちがムカついただけ

絢香

わー、ひどい

そんな会話をしていると、花壇はすぐそこまで来ていた。

絢香

あら、先客?

花壇には、見知った先輩がいた。

絢香

蓮さーん

大きめの声で呼ぶと、蓮さんが振り返った。

蓮さん

お、やっぱりお前がきたかー

その人を認識した瞬間に、匠が一瞬止まった。
あ、蓮さんともしかしなくても初対面だ。

絢香

こんには、蓮さん。
こんなとこで何してるんですか。
紹介します、お友達の匠君です

え?え?そんな適当に紹介されるの!?

絢香

ほら、匠君、ご挨拶

え?!
え、えっと、初めまして、1年生で、絢香のお友達です。
匠です

蓮さん

絢香の友達って千裕くらいしか残ってないと思ってたぜ

絢香

案外私にも友達いますよー

蓮さん

2年の序列1位、蓮見蓮だ。よろしく

あ、はい

ここで、二人は握手した。よかったね。お友達が増えて。あたしは減っていく一方さ!
勝手に嫉妬していると、蓮さんがあたしに向き直った。

蓮さん

で、本題だ。
ここは2年生の花壇だ

絢香

!?

蓮さん

よかったなぁ。
絢香と俺が知りあいで。
ついでに、俺が絢香に謝ることがあって

絢香

こ、ここここここ!2年生の花壇何ですか!?1年生のは!?

蓮さん

お前美化委員だろ?

絢香

いや、お花とかうちの学年そんな場合じゃなかったから活用されてない

蓮さん

1年の花壇は体育館側

遠いっすね

蓮さん

3年は職員室側だ

プレッシャーですね

衝撃の事実が判明していく中、あたしは、ちょっと蓮さんの言葉に引っかかった。

絢香

蓮さん質問です

蓮さん

どうぞ

絢香

なんで私がくるってわかったんですか、あと、謝ることって何ですか。
最後にうちのクラスがごめんなさい

蓮さん

いいよ、花壇は。
美化委員にいっとく。
許せって。

蓮さん

絢香が来るのはほら、上でごちゃごちゃいってただろ、意外と聞こえんだよ。
下まで

蓮さん

もう一個、この前悠美が来た時、調子乗ったから謝ろうと思って

ふーんふーん、へー、そうなんだ。
途中まではちゃんと聞いていたけど、最後のですべてが吹っ飛んだ。

絢香

はぁ?調子乗ったって何してくれたんですか

蓮さん

俺は手を出さない主義だから何もしなかったんだけど、出しそうなやつを紹介しちゃった☆

絢香

かわいくいってもかわいくねーから。何やってくれてんの?あたしの状況知らないの?知っててやったの?後輩がかわいくないの?ねぇ、実は蓮さんてあたしのこと嫌いなの?

あ、あ絢香ぁ、ため口、めっちゃため口聞いてる!

蓮さん

わりぃわりぃ、怒んなって

絢香

そろいもそろって悠美の毒牙に掛かっちゃって、なんなの、そんなにいい女なの?

蓮さん

絢香とは違うかわいい系の女の子の魅力がある

絢香

そう、なんですか。わかりました。もう、机のこと不問にしてくれるなら、もういいです

投げやり気味に言えば、机を運ぶのも手伝ってくれるという。

続々と外堀埋められていくようで、いや、もともと蓮さんはあたしに構ってくれるような人ではないけれど、でも、ちくしょう。その一言があたしの心の中で渦巻いていた。

42時間目:誰もかれもが(2)

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