その女は、突然やってきた。
下級生が上級生の教室に来るのは少し、緊張したのだろうか、オロオロとしているさまは、とても保護欲をそそった。それは、彼女の才能だと、俺は確信した。

クラスメイト

南波さん?誰かに用事?

クラスの女子が声をかけた。
このクラスは2年生の高位を上から順番に集めたクラス。その女子も高位だった。1年でも敵となる人物の名前は覚えていたようだった。

悠美

あ、あの、蓮見先輩いらっしゃいますかぁ?

緊張しながら教室の前で俺の名前を出した彼女の、少しだけ興味がわいた。

蓮見蓮

俺だけどー、入っておいでー

声をかければ一瞬ためらったような仕草をして、彼女は教室に入ってきた。
度胸もしびれるな、なんて俺は思って、彼女が目の前に来るのを待った。

悠美

お、お願いがあってきましたぁ

蓮見蓮

俺にできることなら何でも

俺の机の前まで来て懇願するこの女が心底愉快だった。

悠美

あ、あの、1年生のいじめを止めてほしいんですぅ。
や、泰明と、面識あるって聞きましたぁ。彼を止めてください

蓮見蓮

それはできないねぇ

悠美

なんでですかぁ?

蓮見蓮

俺は他の学年のことに口を出さない

悠美

でもぉ

蓮見蓮

一年ごときが俺を煩わせるなってこと

悠美

……

一瞬だけ見せた俺への敵意は、評価に値する。
2年生でもなかなかできるもんじゃない。
まぁ、俺は手を出さないけど、光はたぶん違うんじゃないか、と思って、成り行きを見守っていた光を探す。
 
さっそく面白いおもちゃを見つけたような顔をした光が視界に入った。
絢香ってば、こうも運が悪いとは思わなかったぜ。

悠美

わかりましたぁ。自分たちでなんとかしますぅ

そういって、俺の前から立ち去ろうとする南波悠美に、俺はほんの少しだけ期待した。
これは、案外上位の器なのかもしれないと。

蓮見蓮

南波、上級生の教室ってのはなかなか居心地悪かっただろ

悠美

居心地がいい人なんて、いませんよぉ

蓮見蓮

見送りつけてやる。光!

桐山光

いいのか?

蓮見蓮

俺は、他学年に干渉はしない

桐山光

ああ、分かった

首をかしげた南波は光に促されて教室から出た。
きっと教室に帰るころまでには、意図が伝わるだろう。
と、思ったところで、俺は正気に戻った。

蓮見蓮

やっべ

近いうちに、絢香に謝ろう。
きっと、ものすごい顔をしながら許してくれるだろう。南波の毒牙にかかったなんて知ったら。
 
絢香とは違う南波の強さに、1年も大変だなぁなんて、そんな感想を抱いた。

41時間目:何を思う(2)

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