……で、紫季は


灯里が自身をどう処すつもりで
 いるのかはわかった。



だが、紫季は?

先ほど

自動人形なんだ

と答えられたが
それは
問いの答えにはならない。
























前にも思ったが
この国は未成年が
ひとりで生きていくには
厳しすぎる。


自動人形がひとりで、となれば
苦難はそれ以上だ。

第一、人権がない。
今は灯里という保護者がいるから
良いようなものの――










黙っていれば人間の娘にしか見えない。
でもいつかはボロが出る

お前がいない間、メンテする奴がいなければ

まぁ……その間、止めておくって手もあるけど


撫子の件から鑑みて
紫季ほどの人形ともなれば
需要は十分にある。

だが撫子のように
扱われるのは稀だ。


この世界では人形は人形。
ただの玩具
ただの機械の塊
としてしか見ない者が多すぎる。

譲り先を誤れば
以前から問題にしていた
性欲のはけ口に使われるおそれもある。


売るつもりはないけれど

だがひとりでは生きていけない

メンテだけ他の技師に
頼んだところで

構造を知ろうとして
必要以上に分解されることも
ないとは言えない。




あのさ。
もしよかったら、

俺が

嫁に貰ってやろう、と?

違う! 俺に幼女趣味はない!
ただお前が出て来るまであの家で一緒に待ってるって



眠らせておくならそれでもいい。
俺は墓守になってその眠りを守ろう。


いつか


























再び三人で食卓を囲む
その日まで。






































だから

……

はは。
外堀を埋めて来たようにしか聞こえないな

だーかーらー!

嫁うんぬんは冗談だって

うん。紫季はあげない















































娘らを殺めたのが灯里でないのなら
侯爵に強要されたからなら

何十年もの刑期や
終身を科せられることは
ないはずだ。





しばらくは

醜聞が絶えないかも
しれないけれど

ひとの噂も七十五日。
そのうちほとぼりも冷める。





灯里ほどの腕があれば
干されることはない、だろう。




ただ……


他人の弱みに付け入る輩は
いくらでもいる。
特に権力者や金持ちは
他人を意のままに動かそうとする。

偽りを語り
脅しをかけようとも。

変な依頼を受けないように、今度は見張っておかないとな

こんなことを考えていると
知られたら

また
「親のようだ」
と笑われるだろうか。

































空に星が瞬く。

幾度となく見上げた空が
今は少しだけ
明るく見える。

……明日も長くなりそうだな

灯里の意思は変えられなかったが
さすがにこの時間から
出頭はしないだろう。


ひと眠りして、夜が明けて。



灯里の持つ証拠と
彼の証言が何処まで通じるか、

侯爵個人の恩恵は受けられずとも
華族全体の権威を気にする輩、
そして擁護するであろう動きに
何処まで対抗できるか、

下手をすれば
足下をすくわれて
灯里ひとりが罪を背負う羽目に
陥るかもしれない。

まだ終わっていない

でも


ずっと両肩に圧し掛かっていた
重みが取れたような
爽快感があるのも確かで。



















これで木下さんも浮かばれるだろうか



迷宮入りファイルの一ページに
しなかったのだから

でかした後輩!

くらいは
言ってほしいものだ。


























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