告別式からの帰り道。
見慣れた森園邸への道のり。

此処を歩いていると
また新たな世界に来たのかと
錯覚してしまう。



でも隣には灯里がいて

ふたり揃って移動するとも考えられるけれど

いや、それはない



鐘は鳴らなくて。
































闇の中に
靴音が溶けていく。











木下女史に謝ったら、俺は全てを話すつもりです

……

ああ言ったものの

帰りの道すがら
灯里は何も言わない。




明日の朝
出頭するつもりか

今も俺が捕まえるのを
待っているのか

それもわからない。





















明日になれば
侯爵が失踪したことは
表沙汰になるだろうか。

既に表舞台から身を引いた
老人の行方など
誰も気にしないだろうか。




でも

今なら、侯爵ひとりに罪を背負わせることも可能だ

「死人に口なし」
と言うには語弊があるが

次元の狭間に消えた侯爵が
もしこのまま戻って来なければ。






灯里が持つ証拠があれば
侯爵の罪は問える。

侯爵がいない今、
恩恵が受けられないとなれば
彼を擁護する者もいないだろう。







父の
母の
侯爵が捏造した彼らの「罪」を
そそぐために
加担せざるを得なかったのなら

むしろ灯里は被害者だと、
俺はいくらでも証言する。














……なあ



あとは灯里だ。

侯爵がこの世から消えたってことで、彼女らの無念が晴れたことにならないかな







あなたの罪は問えないかもしれない。
揉み消されるだけかもしれない。
でも俺はなかったことにはできない




そう言って灯里は
侯爵に切りかかった。


でも
その侯爵は、もういないのだ。















あの時聞こえた歌は。

現れた女は。




灯里に侯爵殺しの罪を
背負わせないために
現れたのだと……


そう思ったのは俺だけだろうか。

助けてくれると信じています

時計塔の彼女が何度も口にした
あの台詞には



















瞳子さんはお前の幸せを願ってたと思う

撫子も



侯爵に罪を重ねてほしくないと願う
撫子と共に
灯里を守りたいという
瞳子の思いも
入っていたのではないだろうか。




全てを被ろうとするであろう
灯里の未来を
「助けてくれ」と――




晴紘

これは俺のけじめだから

紫季はどうすんだ

あの子は――



 ふいに灯里は
晴紘の腕を掴んで引き寄せた。

 いきなり顔を近付けられる。
 
 

……紫季は自動人形なんだ



固まったままの晴紘に
彼は囁いた。

……………………知ってた


何だそんなことか
と言うのも
どうかしているだろうか。




灯里に
昔から心血注いで作っている人形が
あることは知っていた。

何処かから聞きつけて
売ってほしいと言って来る輩が
いることも。















あの日、
侯爵の足下に転がっていた紫季から
零れていた歯車の数々。


あの世界は
俺のいた世界ではない。
俺の世界の紫季は人形ではない、と
そう思うこともできたけれど


彼女は
自動人形に似すぎていて。



























だからこそ思う。
紫季を作る技術があるのなら、

どうして撫子は紫季のように作らなかった

娘たちが犠牲になることも
なかっただろうに、と。











そう問うのは酷だろうか。

作成時期の古い撫子には
改良の余地も少ない。
古い車をどれだけ改造したところで
新車の機能には及ばないように。






でも
そう思わずにはいられない。



それは撫子と言えるだろうか

難しいな

輝さん……親父さんも同じことを言うだろう


そしてきっと侯爵も。

でも人形として完全なものにならなくても、救える命はあった

ひとの命と人形の完璧さを天秤にかけたら、どちらに傾くかは、

そう。だから、侯爵を止められなかったのは俺の罪なのだと思う

父さんはともかく。
母さんも撫子も、きっとそう言う




 灯里は笑う。少しだけ悲しげに。




 その笑みは
とても撫子に似ていて

侯爵が最後に
彼を選んだのもわかる気がした。





































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