音がする。
中の機械が傷ついたのだろうか。
西園寺邸で見た彼女とは
明らかに違う
ギクシャクとした動きで、
それでも撫子は
その場を動こうとはしない。
動かない彼女は
何処からどう見ても
人形にしか見えなかった。
でも
刃の突き立てられた背から
したたり落ちるのは
「人形」が持たざるもの。
以前、工房で見た
自動人形の中身からは
想像もできないもの。
お、前、は……
人形なのか?
それとも
人間、なのか?
何故庇(かば)う。
頭部は未だ人形のままのはずだ。
考えることなど、
考えて行動することなど、
今の撫子にはできないはずだ。
以前、
移植した角膜には
以前の持ち主が見た光景が残っている
などという
オカルトじみた記事を
読んだことがあるが
木下、さん……?
パーツとなった娘たちの意思が
撫子を動かしたとでもいうのか?
それとも
……瞳子……?
試作の段階で亡くなった
瞳子の意思が
灯里を守ろうとしたのか。
人形ではないのか?
人形のふりをしているのか?
本当は
此処で何度も出会った
あの女ではないのか?
撫子は何も語らない。
撫子、何故だ……何故、
侯爵が叫ぶ。
撫子の不慮の動きと
自分がしてしまったことへの
動揺が隠せないのか
手が震えている。
そんな侯爵に向かって
撫子は手を伸ばす。
パン、と彼女の内部で音がした。
ずるり、と手が下がる。
目から液体が零れる。
それはまるで
涙を流しながら
頬を撫でようとするようにも、
手を振るようにも見えた。
撫子、何故だ。
何故、
あと少しでお前は本物の撫子になれるはずだったのに
何故
彼女はギギ、と音を立てながら
晴紘たちのほうに首を向けた。
半開きの口元が
何か言いたげにも見え……
その時、
ぐらりと彼女の体が傾いだ。
撫、
床に空いた穴に
身を躍らせるように
撫子の体が落ちていく。
着物の裾に引っかかった簪が
光を弾きつつ後を追う。
無数の、歯車の中に。
撫子!
駆け寄り、穴を覗いても
何も見えない。
遠くで
カリンと乾いた音が鳴った。
簪のビラ飾りが
砕け散ったのだろうか、
銀色が煌めいた。
歯車の音に紛れるように
何かが聞こえる。
歌が。
それは一瞬、
讃美歌のように響いて