時計塔の鐘の音が
暗い夜空に溶けていく。














また……ここか



晴紘は空を見上げた。
薄い雲が月を隠してしまっている。


導くもののない空は
まるで
抜け出せない迷路に
入り込んでしまったようにも感じる。



……いや

迷路じゃない。道は開けているはずだ




紫季が言った「タイムリミット」が
何かは知らないが

あの堂々巡りに期限があったのなら
そろそろ違う展開が来るはずだ。







ただ、それが
自分で切り開いた道ではなく、

流されているだけというのが情けないけれど


















































































歩き慣れた道を通り
見慣れた玄関に辿り着く。


呼び鈴はない。

……よし


少しずつ違っていた過去と
照らし合わせる作業も
慣れたものだ。

……

……と、自負したところで








些細なことを
鬼の首を取ったように言ったみたいで

なんとなく恥ずかしくなる。





















玄関の鍵もかかっていない。
これもいつもどお――

……鬼の首2

俺、これから毎日こんな思いしなきゃいけないのか……?


無意識に確認してしまうほど
慣れてしまった自分と

そうさせるほど
何度も過去に飛ばしてくれた彼女たちに
恨み言のひとつも言いたい気分だ。

































































玄関を開けると
これまた見慣れた廊下が続いている。


廊下の左右に並んだ
扉の配置も同じ。

居間に食堂に、
ずっと先を行けば工房。

階段を上がれば自分の私室。



それもきっと同じだろう。


























ん?



一瞬
血なまぐさい臭いが
通り抜けた気がして、



晴紘は靴を脱ぐ手を止めた。









違う?

……

いやこれは鬼の首3じゃなくて、本当に、

……なんで自分で自分に弁明しなくちゃいけないんだよ


深刻な場面で
滑稽さに走ろうとするのは

臭いと共に浮かんだ想像を
打ち消そうとしているのだろうか。



















犬のように鼻をひくつかせる。


嗅ぎ取ることができたのは
古い家屋にありがちなカビ臭さのみ。




気のせい、だったのだろうか。











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