だが、そうなると。
てっきり元の世界に
戻ってきていると思っていたのだが
違う世界だとすると……
それは木下さんの足なのか!?
彼はあの足を「木下女史の足」だと
明言しなかった。
あの足は
別の誰かの足だったと言うことなのか?
彼女は晴紘と仲がいいから
あの野郎……からかいやがったな
……とにかく足のことは置いておこう。
考えるべきは頭。
頭の候補になる被害者。
しかし特徴がない
いや
言い換えれば、
年頃の華族の令嬢ならば
当てはまると言えないだろうか。
同じ年頃でも
下町の娘では駄目だ。
店先で威勢のいい掛け声を
上げているような娘は
「撫子」には成り得ない。
言葉の訛りなども考えれば
東京近郊に絞られる。
だとすると
時計塔で出会った
あの「撫子に酷似した娘」の姿が
脳裏に浮かんだ。
彼女が何処の誰かは知らないが
西園寺侯爵が理想とする形は
あの娘なのではないだろうか。
あれが人形の撫子ではないのなら
人形でも……
人形なら生前の撫子のことを話してくれるかもしれない
……
俺もだいぶ毒されてきたな
よもや人形と話をしようと
思う日が来るとは。
しかし
時計塔の彼女が人形でも
そうでなくても
あなたが欲しいのは
これ、でしょう?
彼女がなにかを
知っていることは確かだ。
――信じています
あの言葉の意味も
まだわかってはいない――。