灯里様がいらっしゃるかどうかはわかりませんでしたね



晴紘の隣で
同じように庭を覗いていた
紫季が呟く。

無駄な時間だった、とばかりに
立ち上がった彼女は
座り込んだままの晴紘を
見下ろした。

帰りましょう。あまり長い時間覗き見ていると通報されてしまいます



朝の時間は刻々と過ぎつつある。
今はまだ人通りも少ないが
これでも住宅街。

もうしばらくもすれば
通勤通学の諸氏が行き交うことだろう。



そんなところで
生垣の隙間から中を覗いていれば
不審者、と名乗っているようなもの。

その家が侯爵家ともなれば
問答無用で通報されるのは間違いない。

……


しかし
晴紘は動かない。

晴紘様?

……

晴紘様、いかがなさいました?




紫季が何度か呼ぶと
晴紘はやっと顔を上げた。

心なしか青白い。

……



彼はその青白い顔を
侯爵家の庭に向けたまま呟いた。

なぁ、

……良い足を手に入れた、ってどういう意味だと思う?





































人形のパーツとは違うよね


灯里は
被害に遭った娘たちを
どういう目で見ていたのだろう。

切り刻むなら自動人形でも刻んでおけばいいのに


図らずしも
木下女史を手にかけたのは
「人形ならいい」と言ったことへの
報復のように見えなくもない。









何故彼女を






あの時の彼は
自分と仲がいいからだ、などと
ふざけたことを言ったけれど……






























撫子は古ぅございますから、動きが悪くなればパーツを変えることもございます。

なにか不審な点でも?

……いや




紫季は気づいていない。
少なくとも、そう見える。



























灯里が犯人なのは
もう違えようもない事実なのだろうか。






そして
西園寺侯爵は
あの一連の犯行に関わっているのか、

それとも
利用しているだけなのか。


























「撫子」のために?































蔑ろにされる
人形たちのために――?
































「大庭くん』
















そのために、





































考えたくない。






だが、考えてしまう。
その言葉の意味を。








【肆ノ参】西園寺邸にて・参

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