捜査本部に留まっていた消名は、クラシックめいた電子音に反応してスマホを取り出した。

消名

はい消名

消名

……え?

でも……本当ですか?

一瞬不満げな顔を浮かべた彼は、すぐに驚きの声を上げた。

消名

 …………分かりました

その顔のまま、電話を切る。

夜暮

どうしたんですか?


近くにいた夜暮は消名の方を見やった。

消名

……俺が、この事件の捜査から外れることになった

言いながら、消名は手持ちの書類を整理し始めた。
その手が、震えている。

夜暮

なんで消名さんが? 主任みたいなもんじゃないですか

頓狂(とんきょう)な声を上げた夜暮を、消名は

消名

静かにしろ

と小さく一喝した。

消名

……俺の妹が関わってる可能性があるんだよ、事件に

捜査には基本、事件関係者は加わることができない。

夜暮

消名さんに妹とかいたんですか?

消名

いたよ。言ってないがな


消名は震える右手を左手で抑え込もうとしていた。

夜暮

どう関係してるんです?

夜暮


聞こうとした夜暮を、他の刑事が止めた。

お前はもーちょい気ィ遣えや

殺されてんだよ

  えっ

喫茶店「ナトゥーラ」の店主は、歩く時にも物音一つ立てない。

数奇様、ご機嫌いかがでしょうか

……ああ、まだお休みでしたか
申し訳ございません

完全な防音性を保った部屋の中、数奇透はまだ新たな事実を知ることなく、すやすやと眠り続けていた。

今はごゆっくりお休みくださいませ

‡3.5 まだ幸せでいる 了

‡3.5 まだ幸せでいる ―ⅴ

facebook twitter
pagetop