五日町は喫茶店『ナトゥーラ』の裏口に車を寄せた。

五日町

従業員用の駐車場に車を止めると、周囲を注意深く見回してから、裏口のドアを叩く。

どうぞ

中からの返事を聞くと、すぐさま車内から数奇を支え、裏口まで来させた。

五日町

多少興奮気味だ。頼む

物静かな店主は、表で客に接するのと同じように微笑んで答えた。

いらっしゃいませ。
ごゆっくりどうぞ

奥には、店へと続く扉の他に二つ、左右に扉があった。

その左側に五日町は数奇を連れていく。

やけに頑丈な扉を開けると、無機質な小部屋が現れる。


ベッドといくつかの箱が置かれているだけで、それらも全て部屋全体同様、白だった。

五日町はベッドに数奇を下ろし、上着を脱がせると、首を持ち上げアイマスクを掛けさせた。

イヤーマフをあてがうと、その上から柔らかい帽子を被せて頭を下ろす。

今は、寝ろ。休んでくれ……

そっと数奇の左袖を捲る。

二度、三度と折りたたむと、折れそうな腕があらわになっていった。



ただむき……前腕――肘から手首までの部分のこと。

その腕には、二重の短剣を模したマークによく似た、消えない痕が刻まれていた。

‡3.5 まだ幸せでいる ―ⅲ

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