講堂に入ってきて30秒も経たないうちに、リアは説明を始める。これから始まる激しく厳しい訓練。その内容を一言たりとも聞き逃すまいと、ユフィは前のめりになっている。メナは緊張した面持ちで、姿勢を正した。
私は教官の
リア=ミストラン。
そんな偉いもんでもないから、
リアって呼び捨てでOKよ。
そんじゃあ、この訓練場の
ルール説明をするわね。
講堂に入ってきて30秒も経たないうちに、リアは説明を始める。これから始まる激しく厳しい訓練。その内容を一言たりとも聞き逃すまいと、ユフィは前のめりになっている。メナは緊張した面持ちで、姿勢を正した。
絶対必要な条件は一つ……。
エンゲージ・コアの装着を
二週間続ける事。
それだけ。
説明、終わりー。
これから始まる激しく厳しい訓練。そんな風景を想像していたハル達は、呆気に取られてしまった。そしてすぐに疑問が押し寄せてくる。
もうすぐ結晶師が
来るからコアを
受け取ってね。んじゃ。
本当にそれだけ言って講堂を後にしようとするリアに、ユフィが質問をぶつける。
待って。
全く説明になってないわ。
せめて質問くらい
許して頂戴。
許す!
正し10秒で終わらせてね。
質問がくる事を分かっていた口ぶりのリアは、ユフィに向き直り腰に両手を当てた。
まずはそのエンゲージ・コア。
それは何なのか?
次に訓練の内容。
カリキュラム、課題や試験等が
あれば詳細を知りたいわ。
それにここでの生活のルール、
あと……
ユフィの質問は端的で、矢継ぎ早に繰り出される。その勢いに耐えきられなくなり、リアは10秒経たない間に、その言葉を遮った。
あー、待って待って。
一気に覚えらんないし。
え~っと、
エンゲージ・コアは
人が魔物に対抗する為の
奥の手みたいなもん。
奥の手?
何だそりゃ?
色々使用理由はあるけど、
今は面倒だから
説明は後ほど。
え~。
面倒って……。
あとカリキュラムだっけ?
んなもんないから
適当に時間潰せばOKよ。
生活のルールも特になし。
使いたいものは使えばいいし
ここでの生活はガロンを
必要としないから。
じゃあ、飯も食い放題か?
モチロン。
食い、ホー、ダイ……
何、だ?
いくら食べても
良いって事っすよ。
本当にいいのでしょうか?
言葉どおり裏も何もないわ。
ジャンジャン食べて
大きくなりなさ-い。
結晶師って?
そのエンゲージ・コアってのは
何かの結晶なのか?
勘、いーじゃん。
そんなものはいらん。
訓練もいらないってんなら、
早く潜らせろ。
おー、おー。
威勢がいいことで。
それだけ元気があればよろしい。
チッ
よっし、もうないね?
少し長くなったけど、
はい終了。
さいならー。
リアは一人で勝手に幕を下ろし、足早に講堂から出て行った。
その軽さに唖然の一同。ハルに関しては、小難しい話を聞かなくて済んだとホッとしている。
なんだか、肩透かし食ったな。
私もいっぱい厳しい訓練を
想像してたから
拍子抜けしちゃったよ。
細かいルールがなくて
よかったよ~。
そういうのは肩凝るからなぁ。
あなたはいつものんびりしてて
肩なんて凝らないでしょう。
リュウののんびりさを知るユフィが、静かに突っ込みを入れる。そしてそのまま言葉を続けた。
エンゲージ・コア……。
魔物に対抗する奥の手……。
理由は様々?
二週間の装着に
何の意味があるのかしら?
何も分からないと
不安になりますね。
だーいじょうぶっすよ。
根拠なんてないっすけど、
きっと何とかなるっす。
まぁ、取って喰ったりは
されないだろう。
もじゃもじゃ……
まず、そう。
タラトの拙い言葉に、少し場の空気が和らいだ。その時、フードを被った女性が講堂に入ってきた。
…………
フードの影から見えるその表情は平静で、ウェーブのかかった長い髪が講堂の光を受けている。落ち着いたその雰囲気は、少し騒がしくなっていた講堂にも広がった。
リアが言った結晶師と呼ばれる人だろうか。
お待たせ致しました。
静かで澄んだ声。不思議にも安らぎを感じる。それは大自然の中で心地良い風にさらされているかのように思えた。
私はリーベ=マイデアルタ。
先ほどお聞き頂いた
エンゲージ・コアを
扱う者です。
あなたが結晶師ね。
仰るとおりです、
ベルゼビュートさん。
私はその長、結晶師長を
任されている者です。
師長って事は、
結晶師で一番偉い人?
わわわ。緊張してきちゃった。
そう固くならないで下さい、
マリオンさん。
私達結晶師は、皆さんが
迷宮で生き残る為に
努める者です。
どのような事があれど
皆さんの味方です。
結晶師長・リーベがそう伝えると、メナの強張った肩の力がスゥーっと抜けた。リーベは登録した時に書き込んだ資料に目を通したのだろう。メナとユフィのファミリーネームを知っていたようだ。
それでは説明を始めます。
迷宮に蔓延る魔物……。
その強大な力に対抗しうる
結晶について。
本題に入ろうとするリーベは、変わらず落ち着いていた。奥の手とリアが言った結晶。その説明の言葉を待つハル達だった。