ハルの意識が戻ったのは暗闇の中だった。

 ハルはダナンが酒場に顔を出した事まで記憶にあったが、それ以降の記憶がない。

 ここはどこなのか? なぜここにいるのか?

 そんな疑問は瞬時に脳裏から離れ、どうやらベッドで寝ている事に気付く。

ハル

何か顎が
ちょっと痛いっすけど、
取り敢えず寝るっすーzzz

 あまりの寝心地の良さに、とりあえず枕に顔を埋めるハルだった。

……きろー。

ジュピター

おーい、起きろー!
ハルー!
もう朝だぞ~。

ハル

はへ?
は……ああ、ジュピ、ワ~ア。

 ハルが目覚めると、部屋には太陽光が広がっており、目の前にはジュピターが居た。

ジュピター

お互い酷い目にあったな。

ハル

あ~、そっすねぇ。
じゃあ、おやすみっす~zzz

ジュピター

あ! すっげぇ刀!

ハル

刀!?

 刀と聞いて、ハルは飛び起きる。その脇には、ハルが持参した愛刀・鬼義理(オニギリ)を愛で上げるジュピターがいた。すぐにジュピターの作戦だと気付いたハル。ジュピターのしてやったりと言わんばかりの顔に、朝の挨拶を返した。

ハル

で、ここどこっすか?

ジュピター

やっぱ覚えてないよな。
オイラが一から説明してやるよ。

 どうやらダナンの鉄拳制裁を受けてから気を失ってたらしい。そして結論から言えばここは訓練場内の宿泊場所。

 なぜここにいるかと順を追えば、昨日酒場で飲んだリアという女性。彼女は訓練場の教官で、時間外にも係わらず受付を済ましてくれたのだ。そしてこの四人部屋まで運ばれたらしい。それから、実際の説明は今日の朝、そう今からとの事だ。

影のある男

起きてからも騒々しいな。

 四人部屋にはもう一人居た。影のある不機嫌そうな男で、ハルとジュピターを鬱陶しそうに睨み付けた。

ハル

うるさくしてすまなかったっす。
自分、ハルっす。
ハル=ビエント。
よろしくっす。

ジュピター

ごめんごめん、オイラは
ジュピター=スカーレット。
よろしくな。

 二人は素直にうるさくした事を謝り、名乗り挨拶した。影のある男は、鋭い目つきを二人に向けた。

影のある男

フン。

 昨晩、余程騒がしかったのか、影のある男はそのまま部屋を出て行ってしまった。友好的ではない態度にジュピターは少し腹を立てる。

ジュピター

なんだあいつ?
暗い奴だな。

ハル

まぁまぁ。
きっとうるさくて
眠れなかったんすよ。
もう一度謝ってみるっす。

ジュピター

そうだな。
じゃあ、オイラ達も
講堂に行くか。
そこで説明があるみたいだぞ。

ハル

わかったっす。
いっぱい訓練して
強くなるっすよぉ!

 寝室を出た二人は、長い廊下に出た。ハルはもちろんジュピターも講堂がどこか分からなかった。
 適当に歩こうとぶらついた先で、ダナンとリュウ、そして野性児のタラトに出会った。




ダナン

おーう、おはよう。
俺様の鉄拳で
よく眠れただろう。

タラト

……ハ、ル。肉……。

リュウ

顎、大丈夫かぁ~。

 昨晩の怒りもスッパリ忘れたダナンと、腹ごしらえしたそうなタラト。リュウは相変わらずのんびりした口調だ。

 講堂の場所を知っていたリュウ達に連れられて、無事に到着出来た。
 講堂に入るやいなや、口をぽっかり開けて天井を見上げてしまう。ドーム状になったその建築は高い技術を見せつけているかのようだ。柱の装飾は華美すぎず、且つシンプルで美しい。
 そして講堂には、既にメナとユフィが来ていた。

メナ

ハル! 良かったー、
間に合ったんだね。

ハル

おはようっす、メナ。
余裕っすよ。

ユフィ

昨日、汗だくになって
皆で探したのよ。
まぁ、気にしないで。

ジュピター

気にするよ、その言い方。

ユフィ

リア教官に免じて
今回は不問にするわ。
次、勝手な真似したら……

ハル

は、へへ。
なんだか、申し訳ないっす。

 怒りをギリギリのところで抑えているユフィは、語尾を濁らせた。それが余計に恐ろしく聞こえ、ハルは縮こまってしまった。

影のある男

…………

 影のある男が講堂に静かに入室してきた。ハルは手をブンブン振り、満面の笑みで声を講堂に響かせた。

ハル

やっぱり、今日から
訓練生なんすね。
昨日はうるさくして
すまなかったっす。

影のある男

話しかけてくるな。
お前達と仲良く
するつもりはない。

 愛想を振りまく気などさらさらないのが伝わってくる。

ハル

まぁまぁ、そう怖い顔する
もんじゃないっすよ。
楽しくやるっす。

影のある男

うっとおしいぞ。
俺に関わるな。

 ここまで言われたら普通、関わらないものだが、ハルはまだ何かを言っている。煙たがる影のある男がだんまりを決めこみ着席した時、もう一人、講堂に姿を現した。

空色の髪の女性

はぁ~、
間に合って良かったです。
あ! えとあの
アデリシア=ブライトマンです。
アデルとお呼び下さい。
宜しくお願いします!

 肩で息をしているのは、ファムンテンの店でタラトに料理を横取りされた女性だった。誰も聞いてもいないのに、名乗り挨拶する。

リア

はーい、それじゃあ
アデルちゃん。
着席して貰っていっかな~。
てか、立ったままでも
良いけどね。

アデル

あ!
す、すみません。
すぐに座ります。

 アデルの後ろから現れたのは、リアだった。どうやら説明をするのもリアの仕事のようだ。

リア

あ、ハルもちゃんといるし。
意外に頑丈なのね。

ハル

昨日は世話になったっす。
今日からもよろしくっすね。

リア

元気でよろしい♫
んじゃ、パパーッと
やっちゃおうか。

 軽いノリのリアは講堂の演台に進み、訓練場ルールの説明を始めた。

 ~伏章~     26、訓練生集合

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