背中に、強い衝撃。
それから……
背中に、強い衝撃。
それから……
あっ……
霊深度
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00
六
一瞬何が起きたのか分からなかった。
みぞおちを背中から突くような感触。
今までしがみついていたその人が、僕の背に倒れこむ気配。
そのとたんに増した、重み――
人間一人分の、命の重み。
なっ、だ、だい
彼女を優しく下ろそうとして、
何か言いかけて、
言葉が止まった。
……
彼女の背には、紫の大きな、ハサミの切っ先が刺さっていた。
もう、その人から返事はない。
即死か、それに近い状態なのは、目にも明らかだった。
血がほとばしるように流れ出てゆく。
彼女の肌はたちまちのうちに信じられないほど真っ青になっていった。
反対に、鮮やかな橙が視界を埋めていった。
……ああ、
血、だったんだろうか。
顔に、温かいものがかかったらしかった。
もう終わりにしようぜ?
足音が近づいてくる。
でも僕には、もう気力がなかった。
……って、思ったけどさ。
あんた面白いから、生かしといてやるよ
は……?
どっちの願いも叶えてやるよ。
そもそも殺す気ならアンタごと貫いてる。
最後まで諦めなくて助かりゃいいんだろ?
そいつはそう言って、刺さっていた刃を抜いた。
良い感触だったぜ?
まな板さんよぉ
そのとき、奇妙な感覚が芽生えた。
怒りかもしれない。
背中の痛みが響いているだけかもしれない。
その熱量で、髪の毛まで自在に動かせる気がした。
背中にあるものだって見える気がした。
でもそれは自由な感覚じゃない。
ただひたすらに悲しくて、冷たくて、
今感じても全てが手遅れなんだ、
ってはっきりと分かった。
それでも僕は、
あの殺人鬼をこのままにしてはいけないと、
そう感じた。