……


…………


……………………


私は、必死に息を潜めていました…





身動きさえ許されない、そんな絶望的な静寂…




充満した、火薬の匂い…





そして、周りの壁には、普通の暮らしでは決して見ることはない『弾痕』が無数にあり、時折パラパラと外壁の破片が落ちている





そんな静寂を壊すように、一発の銃声がこだましました




チカ

キャアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!

その音を皮切りに、再び激しい銃撃が始まりました


コンクリートの壁に弾丸とその薬莢が跳ね回り、あたりに外壁の欠片と共にバラバラと派手に撒き散らしている


こだます怒号と銃声に、私の悲鳴など、いとも容易く掻き消されたのでした



各銃口はマリカちゃんに向けられており、マリカちゃんはその対応に追われている



マリカちゃんから発せられる光によって当たりそうな銃弾は弾かれている



どうやら、その光はシールドの役割をしている様だ



もちろん、私はマリカちゃんの光の中にいました

マリカ

うう…、まずいよ!チカ!

もうすぐエネルギー切れちゃう!

どうやら、かなり危険な状況の様です


近くには、ラーティンさんの『素体』が横たわっている



今、ラーティンさんの魂は、ある事情で月衛星軌道まで飛んでいるのです



そして…



ディザールさんは、ある敵と一対一で対峙していました

ディザール

ナハム・アハト!
…起動!

ディザールさんの周りの『空気』が、グニャリと曲がり…

その先端が敵の男に向かい、伸びていく

由比 才一郎

フン!

敵は予測でもしていたのか、ワンテンポくらい余力を残し、その攻撃らしきものをヒラリとかわしました

由比 才一郎

ディザール・アン・ロウタス!

はっ…!相手にとって、不足なし!

敵はディザールさんの背後に回り込み、鋭い蹴りを見舞う


ディザールさんは、あの歪んだ空気で辛うじて威力を半減させたようですが、それでもお釣りの威力で横に飛ばされました

チカ

イヤァァァァァッ!

ディザール

くっ!

空中で体を捻り転倒を回避するディザールさん…

しかし、その表情は苦痛に歪んでいました

由比 才一郎

クククッ!思い出すねぇ!

火星でお前と初めてし合った時分をな!

由比 才一郎

あん時の、決着をまさかこっち(地球)でつけれるとはな!

クククッ!ほーんと、何の因果だろ…

由比 才一郎

…ねぇ!

そう言うと、男はさらに空中で蹴りを二発…いや、三発見舞った


恐るべき、運動能力です

ディザール

……

すべてを捌ききれず、ディザールさんは被弾

そして…

由比 才一郎

どうした?

動きにキレがねぇぜ?

ここの重力じゃあ、重すぎて動けねってか?

ええっ?

その僅かに生じてしまった隙を…

マリカ

……!

男は見逃しませんでした…

マリカ

危ない!

ディズ!避けて

由比 才一郎

…オセェぜ!

由比 才一郎

ブート!

ナハム・アハト!!




















マリカ@りぴーと

第四話 「マリカ@ゆにこーん」













2時間前ー




私たちは、ディザールさんの運転で、目的地のマンションに向かっていました

ディザール

…皆さん、もう少しで到着ですよ

準備をなさってください

チカ

…ふあっ?


…あ!やっばい!眠ってた!

…すす・すみません

ラーティン

ははは、お気になさらず

ほら、こちらをご覧下さい

マリカ

クークー

ラーティン

ねっ、これですから…

チカ

うわっ!爆睡!

ラーティン

お二人ともまるで、親子みたいでしたよ

チカ

うへ?
い・いやぁ、そんな…

うわぁぁぁあ!

寝顔見られてたー!

チカ

と・ところで、さっきの話しなんですが

正直、よくわからなかったんですけど…

ラーティン

え?

チカ

あ…えーと

火星へ行く方法?

ラーティン

あー…

基礎理論の知識がないと、理解出来ないでしょうね

…わかりました、少し話しを咀嚼してみましょう

ラーティン

簡単に言えば、瞬間遠隔移動…

量子テレポーテーションと言って…

チカ

………………………………

すみません…もっと細かく咀嚼してください…

ラーティン

……コホン、えー…では、もっと簡単に言いますと

圧縮した『肉体』と『魂』の情報を光に乗せ、光速で遠隔移動させる…

これが、ジャンプルームテクノロジーなのです

ラーティン

この技術により、地球内の移動だと1秒以内、火星までだと、数分から10分以内で転送できるんですよ

チカ

ほー、ほー

ラーティン

ただし、ここにある装置は、地上での拠点移動を目的で設計されています


その為、短距離ジャンプのみ可能です

火星などの長距離ジャンプは、そもそも出来ません

行けて、月くらいまでです

チカ

ほー、ほー

いえいえ、それでも十分すごいですけど…

ラーティン

ジャンプには、…そうだなぁ…

親装置、子装置が必要となり…つまり…

チカ

つ・対の装置がないとジャンプが出来ない…てことですよね?

ラーティン

そういうことです

ラーティン

ここまでの事を踏まえて、本題になるのですが…


まず、我々火星人について話をする必要があります

ラーティン

我々の住む火星の重力は、地球の重力の40%ほどです

その為、身長がテラン(地球人)に比べ3倍から5倍ございます

チカ

ほー…

チカ

…って、いやいや!ラー様たちは地球人と同じサイズじゃないですか!

ラーティン

…ラ…ラー様?…(小声)

ラーティン

そ・それは、この体が環境に合わせてつくられた素体…

『魂の入れ物』だからですよ

チカ

ええええええっ!!!

ラーティン

仕方ないのです、そのままの体で地球に踏み入れば、自重で動けなくなってしまいます

それに、酸素は我々には毒ですし…

共振だって…あ、申し訳ない、脱線しました

話しを戻します(ニコ)

ラーティン

それで、月衛星軌道上に宇宙船を停泊させ、そこから素体に魂を移し、ジャンプして地球へ来ているのです

チカ

じゃあ、皆さんの実体はその船に?

ラーティン

はい

チカ

……

チカ

あっ!なるほど!

わかった!

チカ

ここから、その宇宙船にジャンプするんでしょ?

チカ

そして、その宇宙船で火星へ向かう…ど?これ?

ラーティン

ナイスショット!

チカ

ぃやた!

ラーティン

しかし、一つだけ、問題がありまして…

…問題?

ディザール

さぁ、到着しましたよ

どなたか、フラーラを起こしてください

チカ

は・はーい!

あぁ、もう!今いいとろだったのにぃ!

うわぁ…気になるなぁ…

また後で教えてもらおう

私は、マリカちゃんを揺すって起こしましたが、全く起きる気配がありません


それどころか、更に深い眠りにつく勢いでした

マリカ

うーん…むにゃむにゃ…

…ぐーぐー

チカ

全くもう…

置いてっちゃうよ…

!!…うわっ!

私は車から降りると、目的地の建物を見て、簡単に言うと…


…引きました

チカ

なにこれ!

マンションじゃないじゃないですか!

ディザール

?…マンション?

通常の居住スペースでは、ジャンプルームを設置できません

マーシアン外郭企業が所有する廃ビルをお借りしております

マリカちゃん…

情報適当すぎ!

マリカ

…んんん〜

マリカ

…あれ?

もう着いたの?

チカ

あ、起きた

ディザール

フラーラ、さっきも申し上げましたよね?

現在、作戦中ですので、一定の緊張感を維持するようにと…

マリカ

何よ!

うるさいなぁ!

少し寝てただけじゃない!

ケチ!

ディザール

はぁー…

気苦労が絶えませんなぁ…

お察ししますよ、ディザールさん…

私たちは建物の中に入って行きました




建物内は、見た目よりも綺麗な状態で、フロアごと全スパンでガランとした作りになっていました




そして2階へ移動すると…




目的地のジャンプルームへ到着したのでした

チカ

こ・これが

転送装置?

ラーティン

はい!

ジャンプルームです

そのフロアの一角に、オーディオ環境のような設備が備えられていました




中心には丸い台座があり、天井にも円盤の様なものがぶら下がっていて




四隅には、台座を囲むようにスタンドスピーカーのようなものが付いていて、すべてが中心の台座方向を向いてる…




思ったよりもシンプルな造りの印象でした

ディザール

チカ殿

唐突にディザールさんが切り出しました

チカ

はい?

何といったら、良いでしょう…



例えると、圧迫面接のような雰囲気



といったら分かりやすいでしょうか…



とにかく、場の空気が一気に変わったんです

ディザール

通常、我々の活動にテランが関わった場合、ルールが御座います…

ラーティン

……

マリカ

……

ディザール

真面目な話です、心していただきたい

チカ

え?は・はい!

ディザール

…よろしい、では問います

ディザール

貴女はこの先、我々の同志となり行動を共になさいますか?

…それとも…

ラーティン

ディ・ディザール!

チカさんは…

ディザール

口を挟まないでいただこう

ラーティン

……申し訳ありません

マリカ

ねぇ、チカさん…

私たちは、生半可ではなくって…

…その…本当に命がけで戦っているの

だからね、ディズは…

ディザール

フラーラ、貴女もです…

これは彼女の…

マリカ

わかってる!

マリカ

わかってるよ…

チカ

………

マリカ

お願いチカさん…

仲間になって…

そうしないと…あなたは…

ディザール

そこまでです

…さぁ、進退を伺います

チカ

わ・私は…

チカ

マリカちゃんと一緒に…

いえ、ど・同志になります!

ならせてください!

ディザール

本当によろしいですね?

チカ

…はい!

もう、嫌いだなぁ…こういうの

ドキドキしちゃうし

ディザール

もう、通常の暮らしとは無縁となりますし…

友人はおろか、親兄弟とも自由に会うことも出来ません

そして、何よりユニコーンどもに命を狙われるでしょう…

でも、きっと必要だからやってくれてるんだよね?


私の為に…

ディザール

貴女に、その覚悟は御座いますか!?

試されてんるんだ!


しっかりしなきゃ!

チカ

はい!

ここで戻っても、私はきっと犯罪者だし

今は、マリカちゃんの保護者みたいなものだから…

話しでは、火星だけでなく地球もピンチなんですよね?

チカ

それなら、私に何が出来るかわからないですけど、一か八か自分の運命にかけてみたいんです!

ラーティン

……

ディザール

運命…と?

チカ

はい…私、あの時…

マリカちゃんと一緒に、保育園の柵を乗り越えた時…

チカ

とんでもないことやってんのに、どこかドキドキ、ワクワクしちゃってて…

私、人生に何か起こったんだ!って

そして、それは多分運命なんだって


…だから

マリカ

チカさん…

ディザール

だから?

チカ

ディザールさん!

お願いします!

私を一緒に連れてってください!

ディザール

……

マリカ

……

ラーティン

……

チカ

……

ディザール

…承知しました!

チカ

……!

ディザール

いささか、疑問の残る回答ではありましたが…

及第点としましょう

ディザール

では、改めて

ようこそ、マーシアンへ!

チカ!

私達は貴女を歓迎いたします!

チカ

あ、ありがとうございます!

ああああああああああああ

よかったぁぁぁぁっ!!

ラーティン

ほぉぉ〜!

よかったぁ〜

マリカ

やったぁ!

はー!ドキドキしたぁ

チカ

それでは皆さん!

これからも、よろしくお願いします!


私は、こうしてマーシアンの一員になりました





でも実は、こんなに簡単ではならしいのです





通例の儀式があり、他のマーシアン達の同意も必要だそうで…




その点、フラーラの推薦という事で認可したのだと、ディザールさんは言っていました





両親に会えないのは正直辛いけれど…





今は合わせる顔がないのと、別に死んだ訳じゃないしと思うことで、気持ちに折り合いがついたのだと思います











だけど…














もしも私が













あの時、断っていたら…























そんな疑問が、後になってふつふつと込み上げてきたのでした…















ペギー

キャプテン解析終了しました

由比 才一郎

おーう

何かわかったー?

ペギー

はい

対象車両について、Nシステムで追跡の結果、未登録の車両でした

由比 才一郎

あー、ほーらね?言ったじゃん

無駄だからやめとけってさー

由比 才一郎

それよりどうよ?この界隈で、空家の電力供給状況は?

ペギー

はい、一件該当物件あり

非常に高い電力が流れているポイントを見つけました

マップからも削除されている建物です

由比 才一郎

はーい、ビンゴー!

由比 才一郎

あー諸君

さっきの保育園で疲れてると思うんだけどさー

もうひと仕事いってみようかー?

何とも気の抜けた号令だが、ユニコーンの兵士達は一様にピリピリした面持ちで、一斉に声を揃えて大声で返事をした


まるで、この男の恐ろしさに怯えているかのように…

由比 才一郎

ひひひ

『メサイヤの鍵』の回収とおまけに、マーシアン狩りときたもんだ!

たまらんねー

男はそう愉快そうに言うと、手元の端末の画面をニヤニヤしながら見つめる


その視線の先には、道路の防犯カメラ映像に映るディザールさんと、ラーティンさんの姿があった

由比 才一郎

ディザール…待ってろよ〜

由比 才一郎

…八つ裂きにしてやっからよー

男の名は由比 才一郎


プロジェクト・ユニコーンの指揮官


大変、優秀な人物であるとともに…











冷血で、無慈悲な…
























最悪の悪党なのでした…

第四話 「マリカ@ユニコーン」



◆次回予告◆

チカ

さーて、来週のマリカさんはー…

マリカ

はい!

マリカです!


以上です!

チカ

……いや、予告せんかい!

チカ

とうとう、職場放棄か?コノメロー

マリカ

いえいえ、来週のマリカ@りぴーとはお休みなんです

チカ

どええええええええええ!

チカ

どうしてまた…

マリカ

作者が花見とか、花見とか、花見とかなので…

チカ

…タヒんでしまえ!

マリカ

というのは半ぶん冗談で

実は、暗い話すぎて、本編じゃ載せれなかった『保育園襲撃』を代わりに投下します

良い子は見ちゃダメだよ!

チカ

そーなんだ、まぁ、ともかく花見にゃ行くわけだ

…やっぱタヒね

マリカ

雨降ったら、第五話もゲリラで投下するかもー、とも申しておりました

いやーひどいもんです

チカ

来週本編お休みです

キャプテン・サイ
『てんせい保育園襲撃』
※注意:残酷な表現がございます

お楽しみに!

マリカ@りぴーと  第四話「マリカ@ゆにこーん」

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