霊、妖、その類を専門に扱うようになって長い。





死者となってからというのは案外長いようで、


            正者に不幸をもたらす者

                 悪霊と化す者


そんな奴らを延々と封じ滅してきた。その生活を幸せだと思ったことはない。

霊深度

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彼らに関わるたびに、自分の業が深くなってゆくのを感じる。


呪いは残酷だ。
解けば関わりを断てる、そういうものではない。

呪う心がある限り、呪いが本当に失われることはない。



私はそれらを、


『霊深度』


と呼ぶ。






一般人なら、霊深度とは縁がないだろう。


普通その度合い


――霊側へどれだけ『沈んでいるか』――

は、0~5。

5以上あれば『霊感』が生じるだろうが、それでも大したものではない。

霊感が強い者や血筋があっても、二桁いく者は少ないだろう。


さて、私は今、何百だろうか

カゲツ、今のうちにいただきなさい


その声で、はっと我に返る。

少女の前に差し出されていたのは、何もかかっていない、白むすびだった。

いつ結んだというのか、まだ温かいようだ。

お米!
これ、りーちゃんと、いっくさんと、……アマさんも! 
みんなの手作りだ!!

少女は目を輝かせ、ぱっと飛び上がった。
そのまま星座で着地して、手を合わせる。

いただきますっ




少女は簡素な皿に優しく鼻を寄せた。




香り。

味気なく言ってしまえば、それを『食べて』いた、
ということになるのだろう。



幽霊には本来摂食活動は不要だ。
悪霊にでもならなければ、身体を無理矢理現世に留める努力は必要ない。




そうだと、思っていた。

……いや、聞いたことはある


お供えのご飯から風味が抜ける。

死人の姿が夜に現れ、釜から香りを全て吸ってしまう……

そんな、話を。

香りを味わい、生気を得る。

幽霊であれば薄れ、擦り切れてゆく感情や記憶を、その生気で保ち続ける。

相当な長さを幽霊でいるはずなのに、その少女には欠けたものがなかった。

生きているときのままの、ごく普通の、生き生きとした少女そのままだった。

まるで生きているようだ


だから、死んだ瞳が不自然だったのだろうか。




……引き締まった、決意の顔だ。


私は、なぜこの少女を、この箱庭のような世界から引き剥がし、連れ去らねばならないのだろうか。

他に、方法はなかったのか……

答える者はなかった。

+00「私だったもの」三

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