ふいに大きな手が頭に乗せられる。
視線を動かせば、見えるいつもの表情。
迷惑をかけているのは私なのに、いつもこうして心配してくれる。
私、この物語の結末は思い出しているの
そうか……
ナイトも知っているんだよね
……いや、知らないよ
そっか………
エルカ、お前が望むならこのままこの世界に留まるのも悪くはないと思う
こんなメルヘンチックな世界は嫌だよ。それに、私一人の為にみんなを不幸にしたくない。だから、物語は終わらせる
そうか………いつも言っているけどさ、あんまり心配かけさせるなよ
え?
ふいに大きな手が頭に乗せられる。
視線を動かせば、見えるいつもの表情。
迷惑をかけているのは私なのに、いつもこうして心配してくれる。
全く、こんなところに閉じこもってさ……引篭もることは許していたけれど、ちょっとやりすぎだな
………ごめんなさい、兄さん
その言葉を口にするのを堪えていた。
兄さんはずっと待っていてくれた。
私が思い出すのを親切な通りすがりのお兄さんを演じながら、ずっと待っていてくれた。
いつも守っていてくれた手で力いっぱい撫でてくれる。痛いぐらいに撫でまわす。
やっぱり………思い出していたのか………オレのことも、他のことも
…………うん
あの日に起きた惨劇も思い出した。
物語を終わらせるのなら、行ってこいよ
……はい
兄さんは、何度も何度も、名残惜しそうに頭を撫でまくる。
行ってこいって言いながら、離してくれない。
知っているから。
きっと、これが最後だってこと。
落ち着いてから王子のもとに戻った。
彼はまだ大量のプリンに囲まれてご満悦の様子だった。
何をしているのです。一緒に食べましょう
そうだね、一緒に食べると美味しくなるものね
彼の隣に座る。
目の前のプリンに違和感があった。
あれ?
カラメルソースですよ
私たちが作ったのはプリンだけ。
ソースまでは手が回らなかった。
王子が作ったの?
はい。ナイトにばかり良い恰好させられませんからね………
ほら、食べてください
……っ
………って、エルカ?
おいしい……
ああああ……
王子は慌てていた。
きっと、私が泣き出したからだろう。
だって、こんなのはズルいと思う。
ソルと同じことをするんだから。
(あの日もソルは私に内緒でカラメルソースを作ってくれた。あれ、美味しかったんだよね)
(でも、あの日の出来事は幸せな思い出にはならなかった。
これで全部……思い出した)
当然ですよ、僕が作ったのですから
カラメルソースのほろ苦い味が口に広がっていく。少し苦い、だけど愛情かけて作ってくれたからほのかに甘い。不思議な味。
………
泣くほど美味しかったのですか、仕方ありませんね
美味しかった……
……ダメだよ
え?
私が描いた貴方の物語。この結末とは違うの………だって、この話は塗りつぶした。この展開は有り得ないの
え?
確かに、一瞬だけは幸せな結末を考えていた。でも、違うの………私の描いた物語は……こんな幸せな物語じゃない
「王子」がカラメルソースを作るなんて展開は有り得ないの。あってはならないの……
パラパラと壁が落ちて来る。
この世界が崩壊しようとしている。
どうしてこういうことをするの?
ソル?本当に何を考えているのよ
私は目の前の王子にそう告げる。
彼は目を見開いて固まっていた。
待ってください、僕はプリン王子だ
………そのモデルはソルだよ。だから、ソルなんだよ
…………
物語の結末は、これとは違うの。
プリン王子の前から、まほうつかいの女の子は消えて、城のみんなも消えて、プリン王子はひとりぼっちになるの
ソルがそうだった。
みんなを突き放して、ひとりぼっちになった。
最終的に全てが壊れて、おしまい
………
こんなことをしても変わらないんだよ。物語の結末が変わっても、現実は変わらないんだよ。甘い幻想は見せないでよ
…………僕は
だから……
俺は………
私の物語で、彼女が王子に告げた言葉を、貴方にあげる
さよなら
さよなら
その言葉で、物語は幕を閉じる。
…………
最後に見たのはカボチャパンツの王子様ではなかった。
泣きそうな顔を浮かべる義兄だった気がする。