第5章
閉ざされたエンドロール
作りすぎたかもしれませんね
これなら数日はもつだろうな
ナイトが呆れ顔を浮かべて、そう言う。
作りすぎたにも程があるだろう。テーブルの上はプリンがズラッと並べられていた。
そ……そうだね
数日ですか? 一日ですよ
ナイトに同感する私。
王子は信じられないというような目を向けてきた。
その反応が、私は信じられない。
マジかよ…………失敗作を味見したからオレは限界
私も少し食べたし匂いだけで、お腹一杯。だから王子が全部食べて良いよ
本当ですか!
私たちとは対照的に王子は目を輝かせている。
本当に好きなんだと、改めて思う。でも、私は限界だった。
うぅ……甘すぎる匂い。耐えられないから外に行ってくる
オレも、ダメそうだ……
二人とも、情けないですね。うっとりする匂いなのに
また、ひとくちでペロリと平らげる王子を見て、彼ならば本当に一日で食べきるような気がした。
えっと……少しだけ散歩してくるね
おう
…………
向かった先は、図書室の奥。
テーブルの上には1冊の本がある。
それを開いて、私は鐘を鳴らす。
……ソル、聞こえる?
…………
返事はなかった。
でも、それでも良かった。
これを告げれば良いのだから。
物語は進んだよ。みんなでプリンを作って、みんなでプリンを食べたの
…………
ソルは…………この後、どうしてほしいの?
………っ
貴方の考えていることは、いつも分からない。教えてよ
…………
言わないのか、言えないのか………どちらでも良いけど。このまま私は物語を進めるよ。良いよね
………
………何も言わなくてもいいよ。じゃ、行くね。
返事がないことを確認して、私は本を閉じる。
その本の表紙を、私は撫でる。
表紙には日記帳と書かれていた。
誰のものかは、知っている。どうして、ここにあるのかは、分からない。
ページを開いても、もうソルの声は聞こえない。
日記の文章は、あまり上手ではない字。
だけど丁寧に書かれていた。
部分的に黒で塗りつぶされていて日記として読むことは出来ない。
これを書いた誰かさんは、私に読んで欲しいのだろうか、読んで欲しくないのだろうか。
読んで欲しいのなら、こんな黒で塗りつぶさない。
読んで欲しくないのなら、全てが黒で塗りつぶされているはず。
それを少しだけ読んで私は閉じる。
…………
そして、その場を去った。
廊下にも甘い匂いが漂っている。
逃れるように客室に駆け込んだ。
ナイトは私が入ってくると、すぐに紅茶を用意してくれた。
私が「話をしたい」、そう思っていることに気付いていたらしい。
これは王子に聞かれてはいけない話だ。
ありがとうね、やっぱりプリンを作るのが上手なのね
んー……作り慣れているからだ
……ナイトがいなかったら、ここまで物語を紡げなかったよ
そのためにオレはここに来たのだからな
ところで、探し物はみつかったの?
もちろん。でも、みつかった後のことは考えてなかったんだよな
ナイトは微笑む、悲しそうに私を見る。