ソルとの話を終えて廊下を歩いていると、前方からナイトが歩いてくるのが見えた。
ソルとの話を終えて廊下を歩いていると、前方からナイトが歩いてくるのが見えた。
どうしたの?
ナイトの雰囲気が違っていた。
何やら荷物を背負っている。
プリンを作るとなると材料が必要だから。調達してくるよ
調達できるの?
本の中から取り出すことは不可能。だけど、この世界には植物がある、よく見れば動物だって居る。だから探してくるよ
………大丈夫なの?
心配してもらえるのは有難い。でも、安心しなよ。考えてごらん、これはエルカが物語を進行させる為に必要なものだ。必ず手に入るはず……エルカが物語を完結させたいと思っていればね
ありがとう
いえいえ、お前はあの王子を見てやりなよ
そう言ってナイトは姿を消した。
ナイトが戻るまで、その間は何もすることがなくて、ぼんやりと過ごしている。
私は、本を開いてプリンを召喚。これは子供向けの料理本で手が届くところにあった。前にナイトに取って貰った本と比べてクオリティーは低い。
目の前にいるプリン王子にそれを与えていた。彼は美味しそうに頬張る。その様子を私は眺めていた。幸せそうな彼は見ていて飽きない。
ソルのことも気がかりだった。
だけど、何の進展もないのに話しかけたら、きっと不機嫌になってしまう。
今、目の前にいる彼を放置しては……この王子が不機嫌になってしまう。
私は、ナイトが戻るまで彼のご機嫌取りをしながら過ごしていた。
そして、数日後……
あ……
……ふぅ
キッチンに大量の卵にミルク……プリンの材料があった。そして、ナイトの姿も。
おかえりなさい
おう
久しぶりに見るナイトの姿に安堵する。
もしも、あのまま居なくなったらどうしようかと不安だった。
材料も無事に調達できている。
私が、物語を完結させようとしている、その証拠だ。
怪我とかしてない?
大丈夫だ
ナイトは涼しい顔で微笑んでいる。
良かった
そこに卵を割れないように並べて貰えるか
うん、まかせて
うぉぉぉぉぉぉ
そして、声を上げて走ってくる王子がいた。彼は、並べられた食材の一つ一つに一喜一憂。
あれも、コレも、揃っている……
そして、最後に端におかれたソレを手に取る。
……………バケツ!完璧だな
大量の材料を羨望の眼差しで見つめている。
一番の功労者であるナイトはやれやれと肩をすくめていた。
………
どうせ作るなら特大プリンを、みんなで作ろうよ。ちょうどいいバケツもあるしね
あれ? バケツって調理後の掃除に使うんじゃないのか?
新品で綺麗なやつって頼んだよね
冗談だって。もちろん、エルカに頼まれたとおりに未使用で綺麗なものを探して来たよ
なら、大丈夫
あのバケツはナイトに頼んだものだった。きっと、食材探しより大変だったかもしれない。
バケツでプリン。
ソルと作った、あの思い出のプリン。
本当はバケツで作りたかった。
だから私は物語の中の王子様にはバケツでプリンを作らせた。
エルカ? みんなで……と言うのは
私とナイトのやり取りを眺めていた王子の表情が曇る。
みんなで、だよ
僕とエルカで……ではなく?
ナイトがレシピを知っているのよ。私たちだけじゃ作れない。私、作れないし。王子だって作れないでしょ
私はプリンの作り方を思い出せていないのだ。
あの日の光景は思い出せるけど、どうやって作ったのかが思い出せない
そうでしたね
……
つまらなそうな王子の反応に、ナイトは控えめに笑う。私はそんな二人を交互に見た。
もう少し、仲良くすればいいのに。
物語ね、少しだけ思い出したの
私の言葉を二人は黙って聞いてくれた。
プリン王子はね、美味しいプリンを探そうとしたけど見つからないの。
だから自分で作ることにしたの。自分で作ると美味しいんだって、教えてもらったから。だからね、王子……みんなで作ると美味しいの
はぁ?
王子が信じられない、というような目で私を見る。
みんなで食べると、もっと美味しいんだよ
………美味しかったんだよ
私は王子をジッと見据える。彼は驚いて目を見開いていた。
そ、そうですね、大きなプリンが……僕は食べたい
うん。ナイト、帰って来たばかりで疲れているだろうけど手伝ってもらえる?
もちろん
そして、三人で三人のためのプリンを作ることになったのだ。