思 い 出 せ な い。
子供の頃の話をしても良いかな
何だよ、急に
今、私が居る本………
子供の頃に私が描いた絵本らしいの
ふーん
だけど、私はそんな記憶は覚えていない。
ソルは知っている?
それって………プリン王子か
うん、そうだけど………
え………私がソルに見せたの?
……………ガキの頃にお前が描いて、爺さんに渡していた本だろ。見せて来たのはお前じゃない、爺さんだ
あー、そういうことね……………私はどうしてお爺様に渡したのかな
思 い 出 せ な い。
知るかよ。とりあえず、俺は爺さんに見せられたんだ
………じゃあ、その内容は覚えている?
私がこの本から出る方法は一つだけ。
この物語を完結に導くことなの。
王子様はプリンが好きだった、
だから名前もプリンだった。そうだろ?
多分………それで合っている。
内容を覚えていないから、断言はできないけれど。そんな気がしてきた。
……そうか
俺の覚えている内容は……………
怒ってばかりの王子がいた。
その怒りを鎮めたのは魔法使いから貰ったプリンだった。
こんな美味しい食べ物があるなんてって……王子は衝撃を受けたんだよ
そういえば、そんなお話だったと思う。
…………
そんなに怒るなよ
怒ってない!
そう言って、彼は怒鳴り散らす。
仕方ないな………
だいじょうぶ?
オレはお手上げ。試しにお前がコレを持って行ってやれよ
え?
渡された皿の上にはプルンとしたプリンがのせられている。
さすがに女の子のことは傷つけないだろうし、何かやりそうになったら絶対に止めるし、後でオレが仕返しするから。
で、でも………
怖がったらダメだ、オレたちは、あいつと兄妹になるんだからさ。
それがオレたちが今やらなきゃいけないことだ。ほら、がんばれよ
わかった……がんばる
プリンを落とさないように、彼に近づく。
鋭い視線で睨まれて、泣きたくなった。
怖い目がジッとプリンを見つめている。
プルプルと揺れるそれを、ジーッと見ていた。
なに? これ
……プリンだよ。食べ物だよ。美味しいの
何とか説明すると、
彼は皿をおそるおそる取った。
私はドキドキしながら、
私の手からプリンの皿が離れるのを見守っていた。
もしかすると、
その皿を投げつけられるかもしれない。
その覚悟はしていた。
だから、ジッと彼の手元から目を離さない。
彼はスプーンですくい、それを口に頬張る。
鋭い目が、大きく見開いた。
……あ、殴られる?
……うまい
え?
何だ……これ、美味しいな
彼は目を輝かせて微笑みを浮かべた。
この笑顔すごくキラキラしていて、何だか私まで笑みが零れてしまった。
ふいに、
脳裏に不思議な光景が浮かび上がる。
私はその光景を視ていることしか出来ない。
………わかったよ。ありがとう
良いのか? これだけで
うん
悪いけど、この先は俺も思い出せない
これで十分。
それにしても子供って単純だよね。プリンで簡単につれるのだから
全くだ。
そうだ、俺と話したことは誰にも言うなよ。お前が信用する相手だとしてもだ。
どうして?
混乱の種になるからだ
わかった、ソルがそう言うのなら、そうするよ。ソルの言葉に従うよ。
ああ、それでいい
ソル………絶対に助けるからね
おいおい……閉じ込められているのは、お前も一緒だろ
あー………そうだったね
用があるときは本を開いて鈴を鳴らしてくれ。気付けたら、気付くから
ソルは寂しいの?
退屈だ
わかった。それじゃあ、また……話しに来るからね
……気が向いたらで良いよ。お前は、その物語を導くんだ
うん
私は本を閉じて目を閉じる。