レインフォード

・・・・・。







 今、猛烈な欲求を覚える紙切れが目の前に有る。





 紙切れ、というにはいささか表現が乱暴だ。


 此処は正直に『契約書』と正式名称で表現するとしよう。




カロン・レンドモード

Mr.レイジの保護者権利、とも言うべき契約書なのですが。

一応、三年間、預かるための書類です

レインフォード

で、何でしょうか。Mr.カロン。

私にこのように大事な契約書をお見せいただいて

カロン・レンドモード

えぇ。ふと思ったのですが

嘘吐け。狙ってだろ

カロン・レンドモード

一応私が持っていても良いのですが、ほしくありませんか?

この契約書

レインフォード

・・・・・。

カロン・レンドモード

・・・・・。





分かって
言ってんだろぉおおお!



このクソガキぃぃいいい!!


カロン・レンドモード

Ms.サトミから聞いていますが、Mr.コンドウはあなたの前世からのご友人とのことですよね。

本来であれば、こういう契約書は私自身が保有しておきたいものなのですよ。

一応、死霊術師とはいえ腕には自信がある

カロン・レンドモード

で・す・が




何が『で・す・が』だ!


もったいぶるな!!



カロン・レンドモード

そのような話を聞いて、私も心がちょっと動いているんですよ。

これはむしろ、Mr.フィリアが持っているべきではないかと……




よく言ったなクソガキ


待ってたぞ、その言葉


レインフォード

で、いくらでお譲りしていただけるのかな?

カロン・レンドモード

いえ、譲りはしません。

Mr.コンドウと結んだ大事な契約書ですので

レインフォード

ほほう?
では、何のお話ですか?

 彼は、一間置く。

カロン・レンドモード

この契約書の『権利の一部』を貸し出そうかと思いまして

レインフォード

は?

カロン・レンドモード

この契約書は名目上、私が持ちます。

その結果、もちろんコレを持っている私が彼のお世話や保護権などを所有することになりますが、この契約書に明記されている内容の権利の一部『一時的に貸し出す』ということです

レインフォード

つまり、飛騨零璽の身の回りの世話や保護の権利を私に貸し出す、ということですね?

それは、契約書を持っていながらやってはいけないのでは?

普通、譲渡して一切の権利も譲るものでしょう?

カロン・レンドモード

えぇもちろんです。

ですから、これはある種、違法なわけですね。

ですが、今回貸し出そうと思っているのは、この一文。

『身の回りの世話』の部分です。

これにより、Mr.レイジに起きた事故……――ギルドの仕事や魔術の失敗などで発生した医療費、それから彼へ提供する住まいの家賃や食費といった彼の身の回りに必要最低限のモノは私が支払うということです

そ・う・き・た・か。





 確かに、その点を抑えれば『保護』をしているということになる。



 この状況で、このクソガキが言いたいのは……――



 飛騨零璽の『日常の面倒を誰が見るか』ということだ。





つまり、
『どこに住まわせるか』

カロン・レンドモード

私が所有している部屋を貸し出しても良いのですが。

でもMr.フィリアの前世の友人の大事な預かり子。

できれば……目の届く場所にいてもらいたいのではないかと

カロン・レンドモード

思いましてね?




ク・ソ・ガ・キ

やってくれるじゃねぇか



 少年の身なりをした金の亡者はわざとらしく眉尻を下げる。

カロン・レンドモード

ですが、これはバレてしまうとギルドの沽券に関わるものです。

絶対に秘密にしていただきたいので……――

カロン・レンドモード

その覚悟、お金で見せていただけますか

言ったなこの野郎。

上等だ。

レインフォード

いくらだ?



神がかっているほどに迷い無く

レインフォードは尋ねる。

カロン・レンドモード

一年おきに契約更新ということで、一時的な権利の一部の譲渡代、一年で一億。

カロン・レンドモード

前金で三億

マジで死ね、クソガキ

レインフォード

期限は

カロン・レンドモード

大金ですので、いつでもよろしいですよ。

ただ、現金でお願いします。
くれぐれもご内密に

極めつけ、


一言添えるところは
さすが商人。

カロン・レンドモード

でも、早ければ早いほど、彼と一緒にいられる時間は長くなりますね。

確認でき次第、Mr.レイジをお連れして結構ですよ



がたっとレインフォードは立ち上がる。




レインフォード

Mr.カロン。
通信魔道具を貸していただけるか?

カロン・レンドモード

Mr.フィリア。
まだこちらの通信魔道具は販売しておりませんが

レインフォード

お前のギルドメンバーの一人を使いとして我が家に派遣してくれ。

その依頼料金を指定した金額、三億と合わせて支払おう

赤石賢誠

やべぇえええええ!!

なんかチョー怖えぇ会話してるぅうううーー!



 今日は機嫌が良いから金儲けの極意、その中でもスピード商法とかの給う技術を伝授して進ぜようとか抜かしたマスターに付き添ってみれば、




ただの下種な詐欺商法だった


しかも人心に漬け込む
最悪な手法だ




 何か金儲けのことは狙ってると思ってたけど、あのボンボンもあのボンボンだ。



赤石賢誠

本当に頭大丈夫か、レインフォードさん!?

飛騨さんが前世の友人だって知らないよね!?

まだ気づいてないと思ってたんだけど、もしかして実は気づいてるんじゃないの!?




 目の前でアッサリと大金のやり取りがなされて、もう泣きそうだ。



 ここにあの飛騨が居ないことは幸いといえる。


 自分が世話になるところが、まさか三億とかおかしな大金のやり取りがされていると知ればガクブルして当然である。




カロン・レンドモード

良いですか、サトミ。


相手を急がせることで判断力を鈍らせます。

これは特に詐欺で用いられる手法です。


Mr.レイジを連れ出すという手法もこれを活用しました。

レインフォードという前世の友人に危機が迫っている。

だから早めに連れ出さなければいけない。

そういう状況を示唆してまず焦らせて、そこに彼自身痛感しているであろう欠点をあえて指摘することで……――

赤石賢誠

マスター! 下種すぎるよ!?

輪廻転生を経た再会を穏やかに祝福してあげようよ!?

なんでそこで『金になる』とか思っちゃうの!?

カロン・レンドモード

……何を言い出すかと思えば。

コレは立派な『ビジネス』です。

輪廻転生を経てまさか巡り会った二人なのですよ?


Mr.レイジの方はもう気づいている。

でも、Mr.フィリアの方は間違いなく気づいていません。

ですが『魂はMr.レイジを求めている』んですよ。


シチュエーションがMr.コンドウが運命の人物と勘違いしているだけで

カロン・レンドモード

魂は、確実にMr.レイジを求めている

カロン・レンドモード

ですが、気づいていないようなので、私達は分かっていてもあくまでも『黙っていて』あげるべきです。

前世の友がMr.コンドウではなくMr.レイジだと自分で気づいた時の『感動』と『運命』を『大金』という価値でさらに高めてあげるのです

カロン・レンドモード

そこで、いつもなら私のような腕利商人もしないことをあえて提示することで『これは運命だ』と更に確信させる……――


いわば『運命の再会という雰囲気』もプレゼントしてあげるんですよ

カロン・レンドモード

大金という対価を支払ってね





 そして、汐乃から帰還直後。


 ギルド『アメノミナカヌシ』のギルドマスター執務室。



カロン・レンドモード

ふむ。

確かに三億と、依頼料金二万七千円いただきました

カロン・レンドモード

ところで、総額三億五○○二万七千円。

つまり、五千万多い理由は?

レインフォード

何。単純な話だ

レインフォード

私も君のギルド加入させてもらいたい。

零璽と一緒にだ

聞くところによると、貴方のギルドは支払う金額次第で実力を示すためのメンバーズランクが変わると聞いたので

レインフォード

つまり、賄賂だ

カロン・レンドモード

なるほど。
清清しいぐらいの潔さ

良いでしょう。
特別にSランク与えます

ですが、本来であれば地道に実力を見てこちらで判断するものです。


この制度は貴族の皆様がどうしてもと土下座して懇願してきた末に設けた裏制度ですから、いきなりSランクは死の危険が多い任務が勢揃いですので受ける際はお気をつけてください

レインフォード

そこはご安心を。
零璽がどの任務につくか分からないから付き添うためには最高位があった方が良いと思っただけなので

レインフォード

では、零璽は連れて行きますね

カロン・レンドモード

どうぞ、ご自由に

赤石賢誠

・・・・・!






コイツら

超怖えぇええええーー!!




うちのゲスいマスターの稼ぎ方

おまけ 『うちのゲスいマスターの稼ぎ方』

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