一度、血に塗れた人間は。
その後も幾度も血に誘われるらしい。
まだ自身を人間と呼称するのはおこがましいか。
一度、血に濡れた“化物”は
その後も幾度も血に誘われるらしい。
そう言ってしまうとやけに当たり前のようになってしまうな。
と、
そんなことを考えながら、ノクトビションは赤い月夜を仰いだ。
跪いた彼の膝元には一つの屍。
そして、その首筋には二つの穴。
一度、血に塗れた人間は。
その後も幾度も血に誘われるらしい。
まだ自身を人間と呼称するのはおこがましいか。
一度、血に濡れた“化物”は
その後も幾度も血に誘われるらしい。
そう言ってしまうとやけに当たり前のようになってしまうな。
と、
そんなことを考えながら、ノクトビションは赤い月夜を仰いだ。
跪いた彼の膝元には一つの屍。
そして、その首筋には二つの穴。
初めて、人間の屍に遭遇してから、三日が経った。
海でエリカに救われ、そして、彼女を殺してから三日が経ったのである。
それにしても、とノクトビションは思う。
一体どうして、こんなことになってしまっているのだろう。
彼には研究所で目覚める以前の記憶はない。
自身がどのような家庭に生まれ、どのような環境に育ち、どのような夢を見て、どのような結末を迎えた末にこんな身体になってしまったのか分からない。
どうしたってこんな訳のわからないことに。
あんなことは一度きりで十分、いや、もちろん一度だって御免だが。
それなのに。
エリカの屍を海に隠した後、ノクトビションは人目につかない高架下で丸くなって眠った。
怯えるように、
凍えるように、
逃げるように、
消えるように、
眠った。
しかし、気づくと。
同じ森にいた。
夢遊病者さながらに、一人でに森の奥深くにたどり着いていた。
しかも、またあの例の甘い香りに誘われて。
自分はどれだけ“化物”なのだと、ノクトビションは自嘲した。
そして、やはりそこには。
血塗れの人体があった。
たゆたゆと。ひたひたと。だらだらと。
ただ血を流し続ける人体。
されど。
彼が見たその段階では、まだ死体ではなかった。
死に絶えた死体ではなく。
死に続ける人体であった。
今度は、男だった。
20代前半くらいの若い男。
苦しそうに呻きつづけていた。
ノクトビションは亡霊のような足取りでそれに近づく。
やはりそれは。
流血による創傷だった。
血管が内側から破られている。
彼は助けを請うような目でノクトビションを見た。
エリカと同じ、赤い、赤い瞳。
しかも、その助けとは。
死線からの救済ではない。
エリカが求めたのと同じ、苦痛からの救済。
だから、ノクトビションは。
その刃のような歯をその首筋に突き立てた。
同じ森にいた。
夢遊病者さながらに、一人でに森の奥深くにたどり着いていた。
しかも、またまたあの例の甘い香りに誘われて。
自分はどれだけ“化物”なのだと、ノクトビションは自嘲した。
そして、やはりそこには。
血塗れの人体があるのだった。
たゆたゆと。ひたひたと。だらだらと。
ただ血を流し続ける人体だった。
されど、やはり。
彼が見たその段階では、まだ死体ではない。
死に絶えた死体ではなく。
死に続ける人体であった。
今度は、女だった。
30代半ばくらいの女。
苦しそうに泣きつづけていた。
ノクトビションは亡者のような足取りでそれに近づくのだった。
やはりそれは。
流血による創傷だった。
血管が内側から破られて。
助けを請うような目でノクトビションを見る。
エリカとも、その前の男とも同じ、赤い、赤い瞳。
しかも、やはり、その助けとは。
死線からの救済じゃなくて。
エリカが求めたのと同じ、苦痛からの救済。
だから、ノクトビションは。
前もしたように。
その刃のような歯をその首筋に突き立てるのだった。
そして、彼は3度繰り返して、これが自身の運命なのだと理解した。
この甘い香りに誘われて、ノクトビションは死にかけて死にきれない人々にとどめを刺す。
殺しなおし。
そして、エリカが告げたあの5文字が呪いのように廻り続ける。
廻る。廻る。廻る。廻る。
……な。
……けるな。
……ふざけるな。
ふざけるな!!!!
ノクトビションは死体を前に激昂した。
こんなの間違ってる。
だったら。
殺しなおしをせずに済むように。
もう……。
誰も殺させない。