潮騒を聞きながら、ノクトビションはあの浜辺に立っていた。
ノクトビションが今抱えている少女に救われた砂浜である。
夜はまだ明けていない。
空はかすかに青を帯びているが、まだ黒が支配している。
それは本来なら美しくも思えるような光景なのだけれど、今のノクトビションにそんなこと思う余裕はなかった。
いや、余裕がなかったというよりも、猶予がなかったというべきだろうか。
なぜなら彼は早急に今抱えている彼女の身体を、亡骸を処理する必要があるのだから。
これがどういう罪になるのか、なんてことは法律を知らない彼にとって知るところではない。
だが、少なくとも。
血塗れの少女を、
息絶えた少女を。
抱えているということが彼を目立たせてしまうということに変わりはなかった。
今の彼にとっての最大限にして最小限たる目標は「逃避」である。
海風がノクトビションの髪を揺らす。
彼は少女の亡骸を抱えたまま、海に入っていく。