――冒険者区、大通り。
――冒険者区、大通り。
いやぁ酷い目にあったっすね。
ふ~、危なかったぁ。
あんなゴロツキと
喧嘩しても、
勝てる気しないからな。
ゴロツキに絡まれ逃げてきた二人。逃げた先は、訓練場とは反対の方だった。
でも上手く撒けたみたいだな。
肩で息をしていた二人は、少し落ち着きを取り戻し周囲を見回した。雑踏は心なしか緩んだように思える。
この先は酒場だな。
そんなに遠くないから
覗いていくか?
酒場!? 良いっすねぇ!
行ってみるっす。
まぁ、酒飲めるガロンは
ないけどなぁ。
文無し素寒貧の二人は、先ほど酷い目にあったにも関わらず、ひやかしじみた事を始めようと決意する。妙に息の合うコンビは、完全に訓練場の受付を忘れていた。
ハルはジュピターと大通りを歩いて色々と見て回るのが楽しかった。お互いの祖父の話になった時、故郷であるシーベルトを出てきた事を思い出していた。
村の皆が手を振って見送っていて、その真ん中に祖父が腕組みをしてしかめっ面をしている。
今も元気にしているだろうかなんて思ってみたが、すぐに大丈夫だろうと心配は胸の内から消えた。
ん!?
そんな時、ハルの視界にエノクに似た冒険者が写る。その冒険者は大通りから路地に入って行った。
ハルが村を出る切っ掛けとなったエノク。再会を約束して別れた事は勿論忘れてはいない。
なんだ?
知り合いか?
さっき話した
エノクっていう冒険者っすよ。
ちょっと追い掛けるっす。
雑踏にもう慣れ始めたのか、ハルはするすると人混みをすり抜ける。ジュピターも負けじと追い掛けて二人は路地を覗いた。
路地は大通りの雑踏が嘘みたいに静かだった。両脇に建物が並んでおり、何の店だろうか看板もちらほら見て取れた。少し進んでみると意外にも入り組んでいたので、一旦諦める事にした。
いないっすね。
他人のそら似かもしれないな。
これだけの人がいると
流石にすぐに
再会というわけには
いかないっすねぇ。
まぁ、そのうち会えるって。
オイラも探すの手伝うし。
サンキューっす、ジュピター。
確かにそんな気がするっすよ。
ジュピターの言葉に、素直に感謝の意を示すハル。二人共、前向きで明るい性格なので、気持ちの切り替えは早かった。
――酒場入口。
こ、ここが酒場なんすね。
この先はオイラも
行った事ないな。
地下っていうのが
ドキドキするっすね。
い、いいいい、
行ってみるか?
おい、おめぇら、邪魔だ。
入口に突っ立ってんじぇねぇ!
うひぃっ!
い、嫌な予感しかしない……
酒場に入るまでもなく、絡まれるハルとジュピター。無一文でひやかしにきたツケは、どう清算されるのか。この時の二人には知る由もなかった。