――冒険者区、大通り。

ジュピター

この先は『冒険者の宿』。
さっきここを歩いてきたんだろ。

 ジュピターは、腕を頭の後ろに組み歩いている。

ハル

そうっすよ。
あまり周りの建物は
見てなかったっすけどね。

 二人で歩く大通り。お互い人見知りなんて言葉には縁遠いせいか、すぐに打ち解け合う。歩きながら身の上話をするのに時間は掛からなかった。

ジュピター

なんだかいっぱい
目的があるな。
父親の事や刀の材料。
エノクって人との再会ねぇ。

ハル

まぁ、ぼちぼちやるっすよ。

 言葉を交わす二人の前に、ひと際大きな建物が現れる。

 何故、さっき通った時に目に留まらなかったのか。多分、踊りながら練り歩いていたせいだろう。

 『冒険者の宿』は、超大型独占宿泊施設。5千人宿泊出来る客室を保有し、各施設も充実している。客室は以下5種類。


 □ 四段ベッドが四台あり16人部屋の
   簡易寝台。
 □ 二段ベッドが二台の四人部屋
   エコノミー
 □ 簡素な個室の
   プライベート
 □ サービスの行き届いた
   スイート
 □ 最高級VIP扱いの
   ロイヤルスイート

 あと、宿賃不要の雑魚寝部屋がある。かつて金を持たない冒険者達が馬小屋を寝床にする時代があり、その人数が増え秩序が乱れた。それから寝床だけの大部屋を増設したようだ。通称タコ部屋と呼ぶらしい。

ハル

さすがに詳しいっすねぇ。

 ジュピターからそんな話を聞きながら、二人は歩く。宿を始めて見るハルは、それを見上げながら歩を進めた。

 話はジュピターに移り変わっていた。ジュピターの祖父はディープスの人間で、昔は冒険者だったらしい。父はジュピターが生まれる前に亡くなったらしく、祖父から剣の手ほどきを受けてきたようだ。

ジュピター

ジッチャンは有名な冒険者
だったらしいんだ。
オイラもジッチャンに
習った剣で腕試しだな。

ハル

おおーー!
有名だったんすね。
すごいっす。
きっと強かったんすねぇ。

ジュピター

自分で言ってるだけだから
分かったもんじゃないけど
剣術が鋭いってのは確かだな。

 ジュピターがそんな事を漏らしながら、雑踏を歩くと、『ドルサック商店』と呼ばれる商店の前に辿り着いた。

 外観はこじんまりとしており、探さないと雑踏に埋もれてしまう存在感。武器や防具、それに装飾品に加え各種道具を売買しているみたいだ。

ハル

おー、こういうのっすよ。
こういう店を探してたっす。

ジュピター

確かに。
オイラも入った事ないから
入ってみるか。

 ジュピターの言葉を合図に、二人は店に入る。その足取りは軽かった。

 狭い店内は整理整頓がされていない。ジュピターはもちろんハルの背丈よりも高い棚から、今にも各種様々な武器が落ちてきそうだ。他の客は偶然なのか日常なのか誰もいない。店の奥の小さなカウンターには、無愛想に見える店員が居眠りをしていた。

ジュピター

ちんけな武器しかないな。

ハル

他の武器は分からないっすけど、
刀は間違いなく
量産品ばかりっすね。

 店に入る前のワクワク感は、完全に霧散してしまった。店員が居眠りから覚めたらしく、予想通り無愛想な視線を送ってきている。

ハル

おにいさん、
もっと良い刀ないっすか?

 ハルの涼風のような質問は、店員に黙殺された。会話に困った二人は、顔を見合わせる。すると店員が誰に言ってるか分からないような籠った声を発した。

ドルサック店員

ガロンどんだけ持ってる?

 見合わせた顔を店員に向ける二人。ハルはそこからポケットに手を入れるてまさぐるが、ゴミしか出てこなかった。

ハル

ジュピターはいくらか
持ってるっすか?

 自分の所持金を諦めたハルは、ジュピターに助けを求める。ジュピターは上着の内側から麻袋を取り出し、不敵に笑った。

ジュピター

ふっふっふ。

ハル

期待させる笑みっすね。

 ジュピターは麻袋を宙に放り投げた。硬貨があれば重みで間違いなく落ちる筈のそれが、フワフワと浮遊感をあらわにして床にファサリと落ちた。

ドルサック店員

出て行け穀潰し共めが。

 ひやかし同然の二人は、店から追い払われた。そのまま雑踏に巻き込まれ、もみくちゃにされてしまう。

ハル

うへぇ、散々っす。

ジュピター

酷い目にあったな。

 そしてヘロヘロになった二人に、大きな影が突進してきた。

 荒ぶるスピードで走ってきた馬車に跳ね飛ばされるハル。

ハル

うげぇーーーっす!
何するっすか!

鎧を着た御者

ほほぅ、ピンピンしとるの。
頑丈頑丈~。

鎧を着た御者

おおっと、
馬車が汚れた。

鎧を着た御者

次は轢き殺す、覚えとれよ!

 鎧を着た御者は、捨て台詞を吐いて走り去る。

ジュピター

酷ぇ、酷すぎる。

 ハルを助けようと駆け寄るジュピターの口から言葉が零れる。

 ジュピターは何かを踏みつけた感触を味わった。そしてその後、嫌な予感が押し寄せる。

 自分が駆け寄った後ろを振り返ると、そこにはゴロツキ感丸出しの恐持ての男が立っていた。

煙草を咥えたゴロツキ

へぇ、結構やるじぇねぇか。
先制攻撃にしては……。

ジュピター

え?
先制攻……

煙草を咥えたゴロツキ

おうコラ!
モジャチビかかってこいや。

ジュピター

え?

ジュピター

うぇぇぇぇぇ!
ハ、ハル!
逃げるぞ!

煙草を咥えたゴロツキ

待てコラァ!
ブチ殺す!!

ジュピター

ぅヒぃぃィ~ぇぇぇえ~!

 踏んだり蹴ったり(轢かれたり)の二人は、限界を超えたスピードで走り去る。その方向は訓練場と逆方向だった。

 ~伏章~     23、先制攻撃

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