――冒険者区、大通り。

 ファムンテンの店を出たハル達は、訓練場を目指していた。大通りを突き当りまで行った先にあるらしい。慌ただしい雑踏は、脇をすり抜けてはあちこちから飛んでくる。田舎暮らしのハルとメナは特にだが、人の圧に狼狽していた。

ハル

こんなにも大勢の人が
いるんすねぇ。
歩くだけでも大変っす。

メナ

ほんと辿り着けるか心配~。
ディープスまでの道のりの方が
短く感じるわ。

ユフィ

活気がありすぎて
落ち着かないわね。
さっさと訓練場に行きましょう。

 人並を掻き分けるように先を急ぐ。少し前を歩くタラトに追い付こうと足早に進んだ。ハル達と同じく平服を来た者達も多いが、鎧を装着して武器を持つ者も多い。地下迷宮に挑む冒険者だ。

ダナン

冒険者って想像していたよりも
ずっと軽装だな。

リュウ

俺もそう思ってたんだよなぁ。
もっとガチガチな鎧を着ている
イメージがあったよ。

ハル

そう言えばエノクも
軽装だったっす。

ユフィ

動きやすさを重視している
可能性が高いわね。

リュウ

なるほど。
そう言われたら納得だな。

メナ

そのエノクさんとも
再会しなくちゃね。

ハル

ワクワクしてきたっす。
凄く楽しみっすよぉ~。

 エノクの事を思い出したハルは、胸を小躍りさせた。いや、それどころか本当に踊っていた。高揚感をそのまま表面に出したその踊りは、奇異の目で見られ雑踏を離れさした。

ユフィ

恥ずかしいからやめなさい!

リュウ

まぁまぁ、そう言わず
ユフィも踊ってみれば
いいんじゃないか?

ハル

おおーーー!
ユフィも踊るっすか?
シーベルトに伝わる
『クロスステップジョージィ牛』
を、教えてあげるっすよ。

ユフィ

は、はぁっ!?
な、な、なんで私が……。

メナ

あはははは。
せっかくだから教えて貰えば?
クロスステップジョージィ牛。

ダナン

ぎゃっはっは。
赤くなってやがる。

リュウ

強がってるようで
意外と可愛いとこ
あるんだよな。

ユフィ

っか!
わ、い……

 

 ユフィの紅潮した顔から、確かに何かが沸騰したような音が聞こえた。いつもの冷静な態度の反動だろうか。それとも攻められると弱いタイプか。しばらく話はユフィの事でもちきりになった。

ユフィ

もう私の事はいいのよ。

ユフィ

ほらあれじゃない?
訓練場って。

 ユフィの指差した方には、他の商店とは明らかに一線を画した建物がある。

 遠目からでも目立つその外観は、おそらくは闘技場だった事が容易に想像出来る。その巨大な建物の外壁沿いを歩くハル達。圧巻のスケール。細部に宿る装飾の数々は、時を刻んだ分だけ美しく映った。

ハル

おおおおーーーー!
言ってた通りで
おぉおぉおぅーーーーぅぷ!
って、感じっすぅ。

ダナン

ちょっと変わったんじゃないか。

メナ

ほんと面白いわね、ハルは。

タラト

おぅっぅぷす!

ダナン

こいつまで言ってるし……。

ユフィ

ファムンテンの食べ過ぎね。

リュウ

だけど思ってたのより
迫力あるな~。

メナ

私は想像もつかなかったけど。

リュウ

おっ?
あれが入口じゃないか。

ダナン

おっし、行くぜ!

リュウ

まっ、俺はここ気に入ったから
後一周してもいいくらいだけど。

ユフィ

呑気言ってないで
行くわよ。

 タラトを追い抜かしたユフィの足取りは軽快だ。

 訓練場の入り口には張り紙がある。決して綺麗と言えない看板に、粗野に貼られたその張り紙。高揚していた気持ちが少し沈んだ気がした。そしてその内容は端的だった。

『受付は夕刻のみ』

 ユフィは端的でいて説明不足な文言に少し苛立ちを見せた。係員はいないし苦情を申し立てる方法も分からないので、1時間ほどだが大人しく待つ事にした。

小柄なクリクリ頭

なんだこりゃ?

 待ち始めてからすぐに張り紙の前に立つ者が現れた。メナよりも低い身長でクリクリした髪の毛が目を引く若い男だ。端的な張り紙を見て目を細めている。

ハル

おおー、もしかして
冒険者になりたいんすか?
自分達と一緒っす。

小柄なクリクリ頭

そうだけど、あんたらも?

 目を細めたまま返事をする男は、質問を返してきた。

ハル

そうっす。
自分はハル=ビエント。
よろしくっす。

ジュピター

明るいやつだな。
オイラはジュピターってんだ。
ジュピター=スカーレット。
よろしくだな。

 体格に似合わず堂々とした口ぶりの小男は、ジュピターと名乗り右手をハルに差し出した。シェイクハンドを交わす二人。そしてリュウ達五人の紹介を終えた後、ジュピターは話を切り出してきた。

ジュピター

まだ少し時間ありそうだから
ディープスの街を
案内してやろうか?
オイラ、ディープス生まれだから
あんたらよりも詳しいはずだし。

ハル

いいんっすか?
嬉しいっす。
絶対行くっすよ。

 即答のハルとは違い、リュウ達は断った。長旅の疲れもあるし、いつ受付が締め切られるか分からないからとの事だった。

ユフィ

受付が終わってからでも
いいんじゃないかしら?

ジュピター

オイラ、じっと待ってるのは
落ち着かないし。

ハル

そうそう行くっすよぉ。

 ユフィの制止も振り切った二人の背中に、早く戻ってくるように伝えるリュウ。軽い返事を発するハルに、メナは不安しか覚えなかった。

 ~伏章~     22、CSJ牛

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