7話:また会おうよ

ついた……

ここが……

あ、あれっ 何で僕ここにいるの。雪華お姉ちゃん、どうして?

……! しっかりして、今日が終わるまではもう少しあるよ。せっかくここまで来たんでしょ!

うっ……そうだったそうだった。

一人だったらとっくに思い出せなくなってたな、これは。

薄れゆく記憶。お願いだ、もう少しだけもってくれ――

どうしようか。もう夕飯時か。こんな時間の訪問者なんて、不審に思われないかな……

……

(真……!)

呼ばれたような気がしたけど……気のせい、だよね。

真、俺だ!

君は? 誰……?

あっ……

当然じゃないか。今の俺は、一郎じゃない。わかってもらえるわけないじゃないか。一体何を言うつもりだったんだ。

信じてもらえない覚悟で、本当のことを話すか?

……だめだ。仮にわかってくれたとしても、俺はもう消えるんだぞ? かえって真を悲しませるだけだ……

……うっうっ……(俺は、何のためにここまで……)

……

ぐすっ……ねえ真、いや真くん……こんなの気持ち悪いかもしれないけど……会えて良かった……手、握らせてくれないかな……

えっ……

やっぱりおかしいよね、こんなの……

……いい、よ。

減るもんじゃないもの……

真、真……! ああっやっと会えた……ッ!

ああ、暖かいよお……! うあああ……!

……寂しかったんだね。わかるよ。

ばっ 俺は、別に……

僕、最近大好きな人が…いなくなっちゃって……ね……

寂しい、のは……よく、わかるよ……

うう、う…… だ、だめ……泣いたって……兄ちゃんは帰ってこないの……

(真――!)

その涙が俺の全身を苛む。

俺が慰められてどうするんだ。俺が弟を助けてやらないとだろうが……!

なんでもいいから、声をかけたい。そう意気込んで、一歩踏み出したその時。

やっと追いついたー! よくもオイラを出し抜いてくれたね。もう怒ったぞ。その魂、2日間と言わず今すぐに! 食べちゃう!

な、何あの気持ち悪いやつ!

オグルちゃんだぞ。ビギー!

特大をお見舞いしちゃうよーー!

なにあれ……

危ない真――!

青白い雷は俺達の方を向いて、思わず俺は真を押し倒して、そして

ぐあああああああああ!!

陽太……!!

背中に、衝撃。何かが、決定的に抜け落ちていくような―――あ―――

よーし、魂が出てきたね! じゃあいただきまーす!

あ、あれ。何で隙間の空間に? オイラ移動してないよ?

ぎええ、上級悪魔様!!

オグルよ。少々おいたが過ぎたようだな。

な、何で! オイラ、ちゃんとノルマを……

無関係な人間への危害、そして二重契約――それでも同じことをほざくか。

ぎゃん! バレてた!

しばし地獄で反省しておれ―――!

GIIIIIIIIIIIII―――――!!

………………

この魂。ほぼ同化しておるな。今更記憶は大して残っておるまい――

こんなものはいらん。少年よ、せいぜい、好きなように使うがよい。

ねえ、大丈夫!?

あ……うん……僕は、大丈夫。 ふわ……何で僕、倒れてたんだろ。

……! 君……

もう嫌だよ……誰かが死ぬのは……兄ちゃん……ああ、あああ……

お、落ち着いて! 大丈夫だよ……僕は、死なないよ……!

そうだ! ねえ、お兄ちゃんがいるの?

うん。事故で死んじゃったけど……優しくて、楽しくて。僕のこといつも考えてくれて。自慢の、兄ちゃん。

そっか。羨ましいな。僕にもお兄ちゃんがいてさ。真くんとこみたいに、出来たお兄ちゃんじゃないけど。

学校でも家でも、いつも問題起こしててさ。

おバカちゃんなんだよ、ほんと。

お兄ちゃんって……それって、君自身のことじゃない……! 君は、もう……

お兄ちゃんのこと、好きなんだね。

ふえっ結構バカにしたつもりだったけど。

だって、すっごく楽しそうに話すんだもの。わかるよ。

…………

まあ、ね。好きなのかも。

もうこんな時間。家に入らなきゃ……

あっ ま、待って!

ね、真くん。僕、陽太。僕、君ともっと話がしたい。友達に……なってくれないかな。

友達……

ご、ごめん。なに言ってるんだろう僕……なんか今日、変なんだ――

ううん、びっくりしただけだから。今までそんなこと言ってくれた子いなくて。だから、大丈夫。

ほんと! じゃあ、友達一号だね! よろしく!

友達……ともだち。嬉しい! こちらこそ、よろしく。

(友達……)

(よかったん、だよね。記憶を失ったとしても、消えることのない、新しい関係を築けたのなら――)

陽太、そろそろ帰ろう。お父さんたちに、心配かけちゃう。

あ……はーい! 真くん、またね!

うん。バイバイ。

日もすっかり暮れ、自転車をひくわたしと陽太。もう、日もかわる。そしたら、君はきっと――

今くらいはこうやって、ゆっくり話ながら、歩きたかった。

さっきの君、真くんを守ってたよね。……かっこよかったよ。

僕もよくわかんないの。気がついたら、体動いてて。だから僕は、何もすごくないよ。

あー今日は疲れたな。なんだかオムライスが食べたくなってきたぞ。

ねえ雪華お姉ちゃん。最近オムライス食べてないよね。お母さんの得意技。 明日作ってってお願いしてみようよ!

そうね……

ねえ雪華お姉ちゃん。ここまで連れてきてくれて、ありがとう。

! どうし、て。

わかんない。とにかく、今のうちにお礼を言わないとって思ったんだ。

あれ……なんで、だろう。涙が……

君……ッ!

とっさに抱きしめる。もろく、折れてしまいそうな体を。ガシャン、バランスを失った自転車の倒れる音が響いて――

そして、時は終わりを告げた。時刻、12時。

お姉ちゃん? どうして僕達、外にいるの?

!!! ウッ…

ど、どうしたの! 泣いてるの……?

何でもないの…… 頑張ったね。頑張って、生きたね……ッ

むにゃむにゃ。なんだか僕、眠くなってきたよ……

帰りましょう……わたしたちの家に。一緒に、ただいましないとね、陽太。

帰ろう。そして、わたし、忘れない。例え君が忘れてしまったとしても。君がいたこと。弟のために何をしたかってこと――

続く……

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