5話:生きたい生きたい生きたい
衝撃の事実。肉体と魂が同化したら、もとの俺の記憶は消える?
記憶が消えたら、死んだも同然じゃんか。俺が、俺でなくなる―――これじゃ、一体何のために転生したんだ……
はあっ はあっ……ううう、あ――あはははっ……!
いいじゃない、過去なんて。昔の記憶に何でこだわるのか、オイラわかんないなぁ~?
今のほうが恵まれてるんじゃないのぉ? 優しい両親に、素敵なお姉さん――
ああそうだよ……俺の人生なんてクソみたいだったさ!
不出来な俺は親に褒められたことなんてないし、学校でもつるんでたのはクズなやつばっかりでさ……怒られてばっかりで、
だけど――!
夕日が赤いのは~太陽がお酒好きのお父さんで~一杯ひっかけてから帰るから~♪
なあにそれ。あのね、夕日が赤いのは地球との距離が関係あるんだって。
距離~?
距離が長くなると、赤い光以外拡散されちゃうんだよ。光の波長が……
お前頭いいな……
ご本に書いてあったの。あんまり外に行けないから、読む時間はたくさんあるもの。
まーたあの親は難しい物ばっか読ませやがって……真! 暇なら俺の漫画貸してやるぞ! でもって、今度一緒に遊ぼうな。
本当!? うれしい!
兄ちゃん、お友達たくさんいて忙しいのに僕と一緒に遊んでくれて嬉しい……
うぐ……純粋な瞳が俺をえぐる。そんなにトモダチおりません……けども……
まあいいんだいいんだ。あいつらは待たしとけば。今はお前と遊んでやるよ。
ありがとう。僕、学校もそんなに行けてなくてお友達もいないし……兄ちゃんがいて、よかった。
真ならすぐ友達できるさ。体が丈夫になったら、キャッチボールでもしような。
うん!
真との思い出だけは、かけがえのない宝物なんだよ……!
このまま会えもしないで、記憶も消えて……?
そんなの……そんなの……!
俺はここで、生きてるんだよ……! このまま消えちまうだなんて……そんなの、嫌だ……!
消えちまう……俺の生きた証……真との記憶……それならいっそ。
大きく息を吸い込み、声を張り上げる。俺がここに生きているって。名前を。俺の。
俺は、一郎だッ! △△町で生まれて! ○○高校の……クソっもう思い出せない……! 生きてるんだ、まだ生きてるんだよぉ俺は!
やめニャさい! それ以上言うと誰かにバレちゃう。バレたら魂は消滅、肉体も死ぬわよ……
構うもんかよ! どうせ、あと数時間の命……!
キキーーッッ!
つんざく音、甲高いブレーキ音。視界に割り込んできたのは自転車。
陽太、乗って!
あっ……雪華姉ちゃん、なん、で……
いいから!
繋いた手。ドクン。鼓動まで伝わってきた気がして。 ふわりと、後ろの荷台に乗せられる。
どこへ行きたい?
えっ お、俺? 俺が決めるの?
行きたいところがあるんじゃないの……!?
あっ……!
薄れかけた記憶を必死にたぐり、俺の家を思い描く。風にカタカタなる物干し竿、朝顔をせっせと世話してたら、隣の家まで伸びてって、おじさんにど叱られた思い出……
くだらなかろうが、俺の、大切な記憶だ……!
お願い……! 隣町の……郵便局を越えて、坂を上がった所……黄色い屋根の家に、向かって――!
わかった。振り落とされないでね。
思いの外飛ばす飛ばす
ブツブツ……
ブツブツ……いはん……
シャー! 契約違反、契約違反!
続く……