…シオン…?

見られた!
というか、…思い出したのか…!?
やばい…どうするどうするどうす

あれ?…あなたはだあれ?

…へ?

ごめんなさい、誰か覚えてないんだけど…
こんな夜中にお見舞いに来てくれてありがとう。

あ、ああ、うん…

っしゃあ!!
思い出してないっぽい!
バカでよかった!

でもほんとにだあれ?
いままでお見舞いに来てくれた人の中にはいなかったような…

え、えっと…
何というかその…

実は、
て、天使なんだ~!
ハ、ハナちゃんは良い子だからやってきたんだ~ハハハハ…(普通に天使とか言っちゃったあぁぁぁぁ)

えっ!?天使さん!?
す、すっごーい!本物!
どうりできれいな服だと思った!羽もあるし!

信じた――!やっぱこいつ単純ーー!

どうして来てくれたの?
…私、もしかして死ぬの?

いやいやいや、死なない死なない!
言っただろう?ただ見守りに来ただけだよ~。

そっかー、ありがとう、天使さん!

…なんか自然に受け止められたみたいでよかったが…
さっきの「シオン」は何だったんだ…?

ハ、ハナちゃん。
さっき「シオン」って言ってたけど、なんか思い出したのか?

え、「しおん」…?

…さっぱりわかんない、何それー?

ぜんっぜん思い出してないわこいつ!!
まあそれでいいんだけど!!!

ごめんね、私きおくそうしつみたいで…

い、いやいや全然だいじょーぶ!てかそのままでいいよ!何も思い出さなくていいからね!

え、でもぉ…

今から新しい思い出を作っていけばいいんだから!
無理して思い出すことなんかないんだよ!ね!?

そっか、それもそうだね。
じゃあ天使さん、今日からよろしくね。
明日からも毎日来て?

う、うん…。

見られちまった以上あんまり顔を出すのはよくないだろうけど…万が一こいつが思い出した時のために、そばにいないとな…

じゃあ、もう夜が明けるから、またな…またね!

えぇ~?もう行っちゃうの?さっそく天国のお話とか聞こうと思ってたのに!
絶対、夜になったら来てね?
待ってるから!

お、う、うん…

そして太陽が昇り、沈んだその日の夜

あ!ちゃんと来てくれた!こんばんわ!!

こ、こんばんわ~。

正直このテンション疲れる…

もう病院ってヒマでヒマで仕方ないんだもん!天使さんが来るの、楽しみにしてたんだ~!

暇つぶしかよ。

でね、きのう私がつぶやいてたっていう「シオン」って何なのか調べたの~!

え、まじか!?
無理に思い出さなくていいって昨日言っただろ!?

うん、でもやっぱり気になるし。
できれば思い出したいもの。

…やっぱこいつに思い出すなっていうほうが無理か。

でね、これ見て?

これ花の図鑑なんだけど、
「シオン」って、花の名前だったの!
花の名前と私の記憶と、何か関係あるのかな?

図鑑には、紫の花弁が放射状に広がっている、墓に供えてありそうな花が載っていた。

…ん?

この花……
何か心がざわつく…
なんだこの気持ちは…

まるで、

失った記憶が蘇るような……

「シオン」。
この花の別名。美しい名でしょう?
あなたの名は今日から、シオンよ……

…さん、てんしさん、

天使さんってばぁ!!
聞いてるの!?

あ、あぁ、ごめん、聞いてなかった…

もうっ!せっかく私が説明してあげてるのに!

ご、ごめんってば…

…何だったんだ、今のは……

ちゃんと聞いててよ!!
それでねっ!この花を見たら何か思い出すかもしれないから、私を外に連れ出して?

…は?

だ~か~ら~、
シオンがたっくさん咲いてるお花畑があるからそこに行きたいんだけど、すごく遠いし入院中の今行けるはずもないから、天使さんに連れ出してもらいたいっては・な・し!

いやだめだろ。
いろんな意味で。

はぇえ~~!?
なんで?天使さんだったらその羽でひとっとびでしょ?

人抱えて飛べるかわかんないし、それただの誘拐だし、一応入院してるんだからおとなしくしてなきゃ…

いーじゃんいーじゃんケチーーー!!

いや無理無理無理!!

正直言うとそれで思い出されたら困るから無理無理無理!!

はあ、しょうがないなあ…
じゃあいいもん。

やれやれ、あきらめてくれたっぽいな…

じゃ、じゃあね、また明日~…

ふんっ!

はあ、へそ曲げやがって…
ほんとにガキだな…

でも、あいつの言ってた花畑には、明日一人で行こう。あの妙な心のざわつきが気になるからな…

え!?シオンの花畑に行く!?

え、何、なんかまずい?

い、いや別に…
行ってらっしゃい…


行ってきます。

ふぅん。
やっぱり運命は必然だね。
今夜ですべてが決まりそうだ。

zzz…

…寝てるな。
すまんが置いていく。

…また明日、407号室で。

こいつがどうなってもいいのかぁ!!!

は!?!?

彼女はフルーツナイフを自らの喉元に押し当てていた。


次章:シオンの記憶Ⅱ

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