いや~、まさかほんとに採用されるとはねぇ~。びっくりだよ~。

びっくりって…。
採用される前提で話持ち掛けたんじゃなかったのか?

え、だっていくら人手不足といったって、人間を天使として働かせるなんて、特例中の特例だよ?ダメ元だったけどよく通ったよね。
…まあ、聖なる護符の力が残ってたおかげかな?

聖なる…なんだって?
なんの話だ?

ん~ん?こっちの話♪
さて、じゃあさっそくだけど、これマニュアルね。あっちからどんどん死者が入ってくるから、これ参考にして案内してあげて。じゃ、また仕事終わったらね~~。

…慌ただしいな。天使もけっこう大変なんだな…。

ま、なんかよく分からんが、いっちょ頑張りますか。

…ふぅ

やー、お疲れさん!
けっこう大変だったでしょ?

まーね。
で、仕事終わったけど、もう行っていい?

急くねえ…。
ああ、いってらっしゃい。

……大丈夫だろうか…?

○○病院407号室

……

い、いた…!

よかった、無事みたいだな。
一応検査のために入院してるって感じか?

あ、てか、どうやって近づこう?
いきなり窓から羽の生えたよく分からん奴が出てきたら絶対驚くよな?

…いや、あいつのことだから驚かないか。
あーでも待て、なんか照れくさ……

…だれかいるの?

え、あ~、その~……

…気のせいかな……

…か、隠れてしまった…
何やってんだ自分…

でもまあ、これでいいよな…
こーやってこっそり見張っといて、いざとなったら助ければいいんだ。
もし自分の正体がばれたら、あいつは負い目に感じるだろうし…

あの人たちに、悪かったな…
でもほんとに「誰?」って感じだったし…

…ん?

私のお母さんだって言ってた人、泣いてたなあ…。早く、思い出さなきゃ。

……え、嘘だろ?
まさか、まさかの、

記憶喪失っすか!?

zzz…

まじかよ…
ちゃんと庇ったつもりだったけど、頭でも打ったか?

ハァ…
手間のかかるヤツ…

でも、

生きててくれてよかった…

…おやすみ。
また明日の夜、407号室で。

で、

こっそり見守るだけで、声も掛けずに帰ってきたわけ?アッハッハッハ!!

…何か問題でも…?

いや、逢いたくてしょうがないのかと思ってたからさあ~ハハハッ
見てるだけって、ストーカーかよwww

ストーカーって…
自分はただ、彼女を死神から守りたいだけなんで…。
接触する必要もないかな、と…

そんなこと言わずに顔見せてやれよ~

……と言いたいところだけど、ある意味会わなくて正解だったかもね。

…?
なぜ?

彼女、別に頭を打って記憶喪失になったわけじゃないと思うんだ。
おそらく、キミが「死んだ」という事実を認めたくなくて、自然と脳が拒否反応を起こした結果だと思う。

え、じゃあもし記憶が戻ったら…

キミが死んだ事実を認めたことになるから、その時彼女がどうなるか…。
取り乱し、発狂して、キミの後を追うことは想像に難くない、そう思うな。

え…会って2か月で、なんでそこまで…
てか、なんであんたがそこまで言い切れる?

うーん、言うつもりはなかったけど…

……彼女とはちょっと前世で知り合ってね。事情も知っているから言うけど、、
彼女にとって、キミと過ごした日々は2か月なんてもんじゃないんだ。

ごめんね、あまり前世の話はしてはいけないからこれ以上は言えないけど…。
とにかく、正確に言えば死神は、彼女が記憶を取り戻し、死のうとした時に現れる。だから彼女を死なせたくないなら、なるべく記憶を刺激しないように、そっとしといた方がいい。

…だからキミが会いに行くってのも少し心配だったんだけど…
ま、キミがそうやってストーカーっぽく見守ってる限りは大丈夫かも。

だからストーカーって言うなよ…。
……ん、事情はよく分からんがわかった。
刺激しないように、見守ってるよ。
もし思い出すようなことがあって死神が現れたら、そん時だけ出て行って、助ければいいんだな。

それがベストかもね。
…んじゃ、今日もお仕事がんばろ~!

はいよ~。

お願い、天使様!
どうか、彼を、彼を…

むにゃ…

…つくづくのんきな奴だなぁ…
ま、そうやってずっと忘れててくれよ…
親御さんとかには申し訳ないけど。

…………

…じゃあな、
また明日の夜、407号室で。

ふにゃ…
……シオン…?

次章:シオンの記憶

2章;明日の夜、407号室で。

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